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『なんか』室市雅則

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 男たちは奇声をあげる沼田に驚いている。その隙に沼田は俺を立ち上がらせ、二人で逃げることに成功した。

 そのままの勢いでホテルの部屋へと戻った。
「ありがとう。助かったよ」
「礼には及びませぬよ。これも同室のよしみ。走って喉が渇きましたので、ビールでも飲みましょうぞ」
 沼田は先ほどぶん回していたコンビニの袋から缶ビールを2本取り出し、1本を俺に渡した。
「お金払うよ」
 沼田はアイアンマンがビームを出すみたいに手を突き出した。
「大丈夫でござる。さ、乾杯、乾杯」
 二人してプルタップを引くとビールが噴き出した。ぶん回していたせいだ。二人して笑った。
 こいつは嫌な奴ではないかもしれない。

 こいつは嫌な奴だ。
 ダブルベッドとはいえ、男二人で同じベッドというのもなので、初日は俺がベッド、沼田は床にホテルにお願いをした布団を敷いて寝ることにした。翌日は逆となる。
 だが、沼田の鼾がバカでかくて眠れない。
「ルルちゃん!」
 なんて寝言まで言っている。
 最悪だ。

「蓮見殿、スヤスヤ眠っておりましたね」
 バカやろう。ついさっき、やっと静かになったからほんの少し眠れただけだ。
「今日はどうされるのでござるか?」
「観光」
「左様でござるか。僕も少し観光をして、夜は参戦でござる」
「あ、そう。じゃあ」

 俺はホテル1階のカフェで朝飯を食べ、兼六園と向かった。
 観光客が大勢いて風情は欠けてしまっているが、素晴らしいものは素晴らしかった。ここでひっそりと来し方行く末を考えることができればと思うが、それは贅沢だろう。
 行く末。つまり、未来。
 お、彼女のことを思い出さなかった。いや、これで思い出してしまった。ダメだ。しかし、こんなことを考えると沼田が姿を現しそうな気がする。だが、周りは団体の観光客ばかりで、沼田の影も形もなかった。

 その後、バスに乗って『金沢湯涌夢二館』へと向かった。
 竹久夢二についての知識はほとんどないが、絵を見ると何か惹かれるのだ。
 お、これはポジティブな『何か』だ。自分の感情ながら、それは言葉にできない。この逆を彼女は俺に対して感じたのだろうか。
 『何か』の尻尾を掴めそうな俺を乗せたバスはどんどん山の方へと入って行った。こんな所にあるだろうかと不安になったが、終着地点には数軒の温泉宿が佇んでいて、少し奥へ行った所に『金沢湯涌夢二館』があった。
 夢二の銅像に迎え入れられて館内に入り、作品を鑑賞する。
 夢二の美人画を前にやはり『何か』を言葉にするのは難しいと感じる。好意とか愛しいとかそんな部類なのだが、それだけでは足りていない気がする。
 一通り観終わり、1階のミニシアターの横を通りかかると沼田が座っていた。
「やや、蓮見殿。偶然ですな」
「だな……」
 沼田は立ち上がり、こちらにやって来た。
「もうお帰りですか?」
「まあ、そうだな」
「僕も帰りますが、バスまで時間があります。そこの足湯に入って行きませぬか?」
 男二人で足湯というのも気が引けるがやることもないので向かった。

 階段を少し登り、小高いところにある足湯に沼田と二人で足を浸けている。沼田がカバンから夢二の椿柄のポーチを取り出した。
「これをルルちゃんに差し入れしようと思うのですが、いかがですかね?」
「良いんじゃない」

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