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『なんか』室市雅則

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 その声と同時に隣に誰かが座った。沼田だった。
「やや、奇遇ですな。やっぱりおでんですな。あ、僕も蓮見殿と同じ日本酒とおでん盛り合わせで」
 沼田はおしぼりで顔面までがっつり拭き始めた。
「蓮見殿、どうでござるか? 美味いですかな?」
 声が大きいんだよ、バカ。お前のせいで不味くなりそうだよ。
 さっさと出て行きたかったが、俺の前にはおでんも日本酒もまだ残っている。
 沼田の日本酒とビールが運ばれて来ると、沼田は短く太い指でお猪口を摘んで俺の方に向けた。
「奇跡の出会いに乾杯」
 何が奇跡だよ。無視をしようとしたが、沼田は酒を飲もうとせずに俺をじっと見ている。
「乾杯」
 俺もお猪口を手に取って乾杯をした。
「うわ、美味しそうですな」
 沼田はバクバクとおでんを食べ、ゴクゴクと酒を飲んだ。
「蓮見殿はどちらから来たのでござるか?」
 さすがにここで無視をするのも周りの目が痛いので適当に交流をすることにした。
「横浜」
「何とお洒落な! 僕は熊本でござるよ。『モコモコメイツ』のツアーに参戦しておりますので」
 熊本から遥々アイドルを見に来たのか。そして、沼田は滔々といかに『モコモコメイツ』が素晴らしいのか、そして、『モコモコメイツ』の中でのお気に入りの『ルルちゃん』がいかに可愛く、ピュアであり、彼女を応援するのが生きがいであることを語っていた。だが、沼田よ、歯の隙間にお前が今食べたタコの赤い身が挟まっていて、それではルルちゃんは振り向かないぞ。無論、俺はそれを注意しない。沼田は、話しながらも着々とおでんを平らげ、日本酒を飲み干した。気持ち良さそうな沼田を見て、俺はムカつき、困らせてやろうと思った。
「それだけ可愛いならさ、ルルちゃんだっけ、彼氏もいるんだろうな。イケメンのさ」
「蓮見殿! そんなことはござらん。ルルちゃんはアイドルなのです。僕らに夢を与えてくれているのです。この仕事をしているうちは、彼氏の『か』の字も相手にしませぬよ」
「仕事とプライベートは違うだろ?」
 沼田は鼻で笑った。
「ルルちゃんのことは僕がよく知っておりますから」
「いつか自分が彼氏にでもなれるなんて思ってるだろ?」
「お話になりませんな。あ、すみません。おでんおまかせ二人前とお酒二本を追加お願いします」
 なんてものぐさな奴なんだ。それだけ飲み食べするとは言え、一気に頼むとは。俺はもう食べ終わっていたので店を出ようと思った。
「じゃあ、そろ……」
 店員さんが沼田の注文したものを運んできた。沼田はそれを俺と沼田の間に置いた。
「一緒に摘まみましょうぞ」
 なんて雰囲気を察しない奴だ。そろそろ出るってのが分からないのかよ。
 沼田は徳利を手にして、俺のお猪口に注ごうとしている。
「いや、俺出るから」
「え」
 俺は席を立ち、会計を済ませて店を出た。

 どうも飲んだ気がしないし、腹もくちくならない。金沢は黒いカレーが有名とも聞いていたので、美術館の帰りに見かけたカレー屋へと向かった。
 人気店らしく、数人が並んでいる。しかし、しばらく待っていても俺の後ろには誰も並ばない。誰も俺について行くのが嫌というのか。彼女もそうだったのか。
 おいおい。まだ彼女のことかよ。
「やや、また偶然ですな」

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