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『ネックレスとネクタイ』二村成

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 夕食にはまだ早い時間だったから、先に温泉に入ることにした。
 研二が風呂から上がって、熱くなった身体を冷やそうと、縁側のソファに腰を下ろしていると、スマホのメール着信音が鳴った。
〝今夜、会いたいの。あなたが泊まっているホテルのとなりに、潮風というスナックが有るから、今夜十時ころから待っているわ。遅れてもいいから来て欲しい。――正直者の天狗より〟
 研二は、ドキリとした。やはり盗聴器でも仕掛けられているのだろうか。正直者の天狗などと言うからには、天狗がうそつきで鼻が伸びたという会話を聞かれたからに違いない。でも、その話をしたのは、食堂に入る直前だ。俺たちの周りには、人の気配は無かったと思うのだが。
 夕食は、大広間に、それぞれの家族用のテーブル席が用意されていた。三人ともお腹一杯食べて、昼間の疲れも出てきて、咲子も友紀も眠そうだ。
 部屋に戻って研二が時計を見ると、ちょうど八時半だった。
咲子と友紀は寝るための支度を始めている。友紀は、歯磨きをしながら、半分目が閉じたような顔をしている。
 結局、九時半になる前に、三人とも布団に入り、消灯した。
 研二は、暗い天井を見上げて瀬戸京子のことを考えていた。
 どうして今になって俺に連絡をしてきたのだろうか。京子はあの頃のままだろうか? もっと綺麗な大人の女性になっているかも知れない。
 研二は、もはや京子に会いたいという気持ちを抑えることが出来なかった。
 並んで寝ている咲子と友紀のようすを窺うと、ぐっすりと眠っているようだ。
 研二はゆっくりと布団をめくって立ち上がった。明かりをつけずに衣服タンスの扉を開け、浴衣を脱いで服に着替えた。そして、金庫に入れていた財布を取り出し、ズボンのポケットにねじ込んだ。
 部屋を出てエレベーターに乗る。一階で降りて、まっすぐ玄関へ向かう。
 玄関を出て左に折れて歩道を歩いていくと、その店はすぐに見つかった。
 スナック潮風と書かれた看板の脇に入り口のドアが有った。
 ドアを引いて店内を覗くと、カウンターの中にマスターだろうか、白髪の男が立っていた。白いワイシャツを着ている。
 カウンターの前には、テーブル席が四つ並んでいる。こじんまりとした店だった。
 客は一人もいない。
 時計を見ると、九時四五分を過ぎたところだった。どうやら急ぎ過ぎたようだ。
 まあ、しょうがないか。
 店の一番奥のテーブル席に一人で腰掛けていた中年の女性が、「いらっしゃい、どうぞ」と言って立ち上がり、入り口にたたずんでいる研二に近寄って来た。
 研二は女に案内されて、カウンターの真ん中よりも少しだけ奥側の椅子に腰を下ろした。
「お一人ですか?」
 カウンターの中から、白髪の男が聞いた。
 初老の感じだが、ずい分痩せた男だなと、研二は思った。
「ちょっと待ち合わせなんです」
「そうですか。それでは、お連れ様がいらっしゃるまでお待ちになりますか?」
「いや、ビールだけ貰おうかな」
「かしこまりました」
 女が、研二におしぼりを手渡した。
 初老の男が研二の前に、栓を抜いた瓶のビールとグラスを置くと、脇にいた女がビール瓶を持って、「どうぞ」と研二に勧めた。
 研二はグラスの半分ほどを一気に飲んだ。京子に会う緊張感からか、のどが渇いていた。
「後は自分でやりますから」
 研二は、となりに立っていた女にそう言うと、女は、「ごゆっくりどうぞ」と言って、また奥のテーブルに戻って行った。
 黙ったままビールを飲んでいると、研二の右斜め後ろで、ドアが開く音がした。誰か客が来たのだろうか。それとも、瀬戸京子が来たのか?

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