「鼻が長いって、相当、嘘をついたんだね」
「いや、ピノキオじゃないから、嘘をついて鼻が伸びたのとは違うと思うぞ。最初から長いみたいだからな」
「じゃあ、生まれつき嘘つきなんだよ、きっと」
「そうそう、鼻が高い人って、信用できない感じがするわよね」
友紀と研二の話に、急に咲子が入って来た。
「おいおい、どさくさに紛れて、自分はいい人アピールするなよ」
研二が言うと、友紀が研二の背中をバシンと叩いて言った。
「あー、ママのこと鼻ぺちゃって言った。ひどいよ。ママに謝りなさい、ねえ、ママ」
「そうそう、ひどいことを言ったから、パパはお昼抜きね」
最近は友紀も少しずつ大人びて来て、こんな時になると、たいてい女同士が結託してしまうのだ。
「何言っているんだ。鼻ぺちゃなんて、言っていないだろ」
「え? だって、ママが、鼻が高い人は信用できないって言ったら、ママはいい人アピールしてるって言ったんだから、つまりママが鼻ぺちゃっていう意味ジャン」
「ねえ、友紀ちゃん、そこまで解説しなくていいから」
咲子は苦笑気味だ。
「ねえ、パパの冗談で笑ったらお腹がすいた」
「ちょっと早いけど、そろそろお昼にするか」
研二は、昼ご飯を提案した。
「え? パパはお昼抜きじゃないの?」
「おいおい、俺も食べるよ」
「どうする? ママ」
友紀が楽しそうに咲子の顔をのぞき込んだ。
「しょうがないわね、パパも入れてあげよう」
「良かったね、パパ」
友紀が研二に無邪気な笑顔を向けた。
結局、海に辿り着く前に、お昼ご飯を食べることになってしまった。ちょうど、海鮮料理を食べさせてくれそうな食堂が目の前に現れたので、迷わずにそこに入った。
三人は、海鮮のちらしずしを注文した。
研二は、ポケットからスマホを取りだして、メールが届いていないかチェックした。
〝私を追いかけて来てくれたのかな。ありがとう。まさか伊東でも見かけるとは思わなかったわ。どうする? 私といっしょに飛んでみる? ――柏峠の天狗より〟
まさかと思ったが、このメールは間違いなく瀬戸京子だろう。しかも柏峠の天狗の話が聞こえたということは、俺たちのすぐそばにいたはずだ。
「ねえ、パパ。なにキョロキョロしてるの?」
友紀が不審そうな顔で研二の顔をのぞき込んだ。
研二は適当な返事をしながら、頭の中で駅からの道を反芻してみた。伊東駅からここまではそれほど多くの人がいた訳ではない。すれ違ったり、すぐ後ろにいたりすれば、気付いても良さそうな気もするのだ。
まあ、まさか瀬戸京子が近くにいるなどと思いながら歩いていた訳ではないから、気配を感じなかったのかも知れない。
三人は、昼食を済ますと、砂浜を散歩した後、研二が旅行前に計画していた、シャボテン公園に行った。そして夕方には伊東の温泉旅館にチェックインした。