「どの料理が一番おいしかったですか? 今後の参考にしますので」
「カラオケでのお客様の渋い声もよかったですね」
毎回毎回本当によくしゃべる。
「そうだ。少しこのあたりを観光していってはどうですか? 私が案内しますよ」
というオーナーの申し出を丁重に断った。帰りぐらいは一人で静かに過ごさせてほしい。
「そうですか。それでは観光はまた次回ということにしましょう」
「忘れ物はありませんか? このホテルの忘れ物№1は実は財布でして、この間のお客様なんて……」
「昼食はこちらで食べて行かれますか? いいお店を紹介しますよ」
また、オーナーの一人トークが始まる。もうとても付き合いきれないし、何よりこのままじゃここを出られない。
「お世話になりました。それでは失礼します」
俺は無理やりオーナーの話に割り込んであいさつをし、ホテルを出た。
「ぜひまたホテルAI(愛)にお越しください!」
ホテルを出た後もオーナーの大声が聞こえてくる。
俺は少し歩いた後で立ち止まり、ホテルAI(愛)を振り返る。
「とんでもないホテルだったな」
そうとしか言いようがない。あんなホテルにもう二度と行くことはないだろう。
再び歩きはじめる。そのとき、俺は無意識につぶやいていた。
「でも、またいつか行こうかな」