そう言ってくれたあっくんもまだ子供だったから、アタシに気を使ってくれたのかは分からない。
あっくんが本州の病院に移動することになった時は、とても悲しかった。もう会えないんじゃないかって。あの入江でさよならをして、彼が乗った船が去って、溜まった涙が一気に零れちゃったのを覚えてる。
継続的な投薬と検査が求められる病。漢字とカタカナが入り乱れするその病名を前に、アタシは何もしてやれない。アタシが出来たことと言えば、彼と電話して、手紙書いてただけ。
もう何年も、顔を合わせてない。
看護学校に入るために両親の仕事を観察しつつ、勉強を頑張ってきた。
成績が伸びた伸びないを繰り返し、星空を見上げながら彼を想う。
恋しさを感じているうち、時間は流れていった。
病に臥しながらも、あっくんは高校に通っているらしい。電話で面白かった出来事を教えてくれる。彼が退屈な日々を過ごしていないだけで、アタシはホッとする。
いつか、あっくんの病気が治って会いに来てくれるかも、アタシが立派な看護師になって再会できちゃうかも、なんて妄想をする。嬉しくって、もじもじする。
それだけ募る気持ちがあったからこそ「島に帰れるかも」と言われたときは嬉しかったし、無理かもと言われた今は、腐った気持ちになる。
部屋の窓から、また潮風が運ばれてきた。
瞼が、重い。
あの人魚も、アタシと同じように男の子を好いたのだろうか。
約束の入江に、なぜか彼が居る気がした。
6
なんとなくあの入江に行ってみると、渚にあっくんが立っていた。
成長したその姿に、一瞬誰か分からなかった。でも、アタシを見つけて彼が向けてきた笑顔に、いつかの面影があったんだ。
「やっほー、咲ちゃん」
アタシはすっごくびっくりした。
「ど、どうしたの⁉ 病気が悪くなって、あっくんのご両親と一緒に居るんじゃ……」
「体ね、すっかり良くなったのさ。奇跡だっていっつも同じ服のお医者さんも言ってた」
言われてみると、彼の体は健康的な肌色をしている。診療所にいた時に刺していた管の痕すら見受けられない。
「信じられない? ほらっ」
「えっ」
アタシがぽかんとしている隙に、彼は抱きついてきた。柔らかい彼の体に、抱かれるしかなかった。
「わわっ。あ、あっくん⁉」
「こんなに元気」
紅潮する顔を何とか見せまいと努力しながら、アタシも彼の背に手をまわした。
本当に良かった。彼が良くなって。
「ねぇ、ちょっと歩かない?」
彼の誘いに二つ返事で答える。歩いた先は、入り江の中の、彼と私が分かれた場所。波打ち際の岩盤の上に並んで座って、いくつか話をしたが、
「彼女とか作った?」
「ううん」
「……あっそ」
ちょっと安心したのはこの話題だった。
「咲ちゃん、今度どっかいこうよ」