1
「明日、島から出てっちゃうんだね」
サキちゃんが寂しそうに言ったのを、今でも覚えているよ。
「……ボク、行きたくないよ」
サキちゃんと一緒に居たい、って付け加えたかったけど、恥ずかしかったんだ。
「これ、あげる。サキからのプレゼント」
女の子の柔らかい手が、それをやさしく包んでいた。
「はーげんだっつ……ハーゲンダッツ!」
「そう! ストロベリー味! あっくん好きだよね?」
毎月貰えるお小遣いを出し合ってスーパーカップを買い、はんぶんこしてたボクらにとって、ハーゲンダッツは憧れだった。
「しかもふたつ……」
「いっこは今日の。もういっこはまた明日ね」
サキちゃんは、時々お母さんみたいになる。
「おかね、たいへんだった?」
「だった! でも買えたよ!」
えへへっ。
眩しいくらいの笑顔がサキちゃんの人気の秘訣だった。
「ボク、これ大切にするよ!」
「えー、溶けちゃうから大切にするのもほどほどにね?」
彼女に諭されるように、アイスを食べだした。食べてるうちに、悲しくなった。
サキちゃんに「よしよし」されても、ぽたぽた涙が出てくる。
「またここであえるよ。やくそく」
サキちゃんのその言葉だけが、救いだった。
2
僕がとある事情であの島から離れて、数年が立った。
本土にやってきてから、僕は充実した生活を送っていた。引っ越した家の近くに小中高一貫の学園があり、ずっとそこに通っている。
両親は僕に良い学校に進んでほしがった。小学校の編入試験は、付き添いの母さんの化粧にも気合が入っていたのが、小さい僕にもなんとなく分かった。
後から聞いた話では、僕の編入試験の出来はあまりよくなかったらしい。
試験はペーパーテストに加え、面談がある。僕は二回ある面談の方が苦手だった。
声がぼそぼそして、元気がない。テストの点には余裕があったが、最近の私立学校が求める優秀な生徒とは「点数が取れるだけの子」ではないらしい。しかし、二回目の面談の時間で、僕を拾ってくれた人が居ると言う。
「キミは……えっと、アキラくんかな。今日はありがとうね、こんなオジサンとお話しに来てくれて」
編入を希望した小学校の校長先生だった。
「……こんにちは」
「うんうん、いいね。こっちを見て、あいさつが出来るんだねキミは。ねぇアキラくん。前に居た島で、キミはおともだちになんて呼ばれてた?」
「あっくん、って呼ばれてました」