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『ウルサイところ』室市雅則

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「いえ……。はい」
 深津氏が笑った。
「そうですよね。実はうちはね、子供が授からなかったんです。でも、子供が好きで、ボランティアで子供の面倒をみたりしたんです」
「はい」
「色んな子供たちと出会いました。まるで自分の子供のように思えてね。中には大きくなってまた会いに来てくれた子もいて嬉しかった」
「はい」
「けれど、時代が時代なんですかね。子供たちの人数が減ってしまって、我々の出番もなくなってしまいました。もうこの年齢ですから、引っ越してまでそういったことをするのは難しいですし、近所をうろついても怪しまれてしまう」
 原田は黙って頷いた。すると、遠くの部屋の子供の泣き声が止んだ。そして、ついに一日の幕が降りた。フロアは静まり返った。
「それから私たち夫婦の中には、ぽっかり穴が空いてしまいました。どうもハリがなくて、ただただ静かに歳をとっていくだけ。そんな時、こちらのホテルを知ったのです」
「ありがとうございます」
「『ウルサイ』を求めて私たちは来ました。変なお客でしょ?」
「そんなことは……」
「あ、すみません。私がお声がけをして起きながら。ビールが温くなる前に」
 深津氏はビールを掲げた。
「子供は宝ですね。いくら騒いでも、泣いても、未来が詰まっている。お休みなさい」
「はい。それでは、お休みなさいませ」
 原田は頭を下げ、深津氏は部屋に戻って行った。

 フロントに戻り、一日の締め作業を先輩から習うと原田は仮眠の時間となった。
 ベッドに入って考える。
 『ウルサイ』が嫌がられるから、それを逆手にとってこのホテルがある。しかし、さらに逆にそれを求められることがあるのは驚きだ。
 どこで何が必要とされるか分からない。
 これは自分の存在にも言えるのかもしれない。
 辞めて去ることは簡単だ。ここで踏ん張り、誰かの笑顔を見られるのも幸せかもしれない。『ウルサイ』ことが喜ばれる場所なんて、もしかしたら世界中にここだけかもしれない。

 そんなことを考えていたら、あっという間に仮眠の時間は終わり、フロントに戻った。
「楽しい夢でもみた?」
 原田はどうやらニヤついていたらしい。
 特にトラブルもなく朝がやって来た。
 次々とお客さんがチェックアウトをしていく。
「お兄ちゃん、ありがとうございました」
 恥ずかしそうに子供に言われると嬉しいものがある。
「またよろしくお願いします。気兼ねなく過ごすことができました」
 赤ん坊を抱えた母親に言われると良い場所なんだなと感じる。

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