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『ドレスダウンホテル』太田純平

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「4」

 炎天下の中、国道沿いの道をケイティと歩いた。蝉の鳴き声。アスファルトの陽炎。お婆ちゃんの足だからこその、バス停までの果てしない道のり。彼女は浴衣だからまだいいが、俺はホテルの制服姿だ。蒸し暑くて堪らない。
「あれは何?」
 地方都市特有の大手ではないコンビニを見て彼女が言った。さすがに「あれは何?」くらいの英語は分かるから「オウ、コンビニ」って答えようとしたけど、そもそもコンビニって和製英語だっけ、みたいな事が頭にチラついて、「オウ、え~っと、コンビニエンス、ストア?」といった具合で探り探り返事をした。相変わらず彼女は色々とフレンドリーに俺に話し掛けてくる。
 とんだお盆だ。「みんなお盆で地元帰っちゃうから、シンゴ出勤してくれない?」なんて頼みを易々と聞き入れるもんじゃない。本来なら俺だって実家に帰り、冷房の効いた部屋で麦茶に入った氷を指で弄びながら、老舗のスーパーが潰れただの、駅前に喫茶店が出来ただの、親戚のおじさんが通風だの、家族とそういう他愛のない会話を――。
「シンゴ?」
「イエス?」
 またケイティに「あれは何ですか?」と質問された。雑貨屋の店先でチリンチリン鳴っている風鈴が気になったようだ。
「オウ、え~っと……」
 またも説明に窮する俺。正直もうクタクタだった。だけど質問してくる彼女がイチイチ楽しそうだったから、結局、彼女がバスに乗り込む最後の最後まで見送ってあげた。何だかんだで一時間くらい、ホテルからバス停までの往復で時間が掛かってしまった。

「5」

「制服で出歩くな」
「勝手に持ち場を離れるな」
「報、連、相がなってない」
「自分の仕事を分かっているのか」
「お前がいない間に万引きでもされたらどうするんだ」
「道案内なら口で出来ただろう」
「道案内はあくまで善意であって仕事じゃない」
「お前はホテルマン失格だ」
 列挙すればこんなところだろう。ホテルに戻って来ると、宇梶さんはカンカンだった。ほとんど正論だから何も言い返せない。
 俺は「すみません……すみません……」と宇梶さんに頭を垂れながらも、今日で辞めてやろうと思った。接客はおろか、俺に社会は向いていない。それでも客がやって来たので「いらっしゃいませ」と顔だけ笑った。
 気が付くと夕方になっていた。そろそろ上がりの時間だ。私服に着替えてタイムカードを押したら「今日で辞めます」と一言いって、さっさとバックれよう。自由になったら何をしようか。とりあえず一週間くらい家に引き籠も――。
「シンゴ!」
「!?」
 声の主はケイティだった。彼女はロビーから一目散に俺のところへやって来ると、外人らしくハグを求めてきた。慣れないハグに戸惑う暇もなく、口鬚を生やした外人男性もニコニコ歩み寄って来て、俺に握手を求めた。
「……?」
 一体、何がどうなっているのやら。ケイティは連れの男に「彼がシンゴよ」みたいな事を言っている。男は背広でビシッと決めた四十代の白人で、どう見ても上級国民の類だ。
「お客様~?」
 何事かと思ったのか、宇梶さんがフロントから駆けつけて来た。すると男の方が流暢な日本語で「うちの母がお世話になりました」と言った。完璧な日本語の発音だ。母というのは無論ケイティの事だろう。
「申し遅れました。私は駐日大使のジョーンズです」
「ちゅ、駐日大使!?」

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