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『ドレスダウンホテル』太田純平

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 さすがに宇梶さんも面食らった。オーラからしてエリートだと思ったが、まさか駐日大使とは。ポカンとしている我々を見て、ジョーンズは内ポケットから名刺のようなものを取り出した。宇梶さんが受け取ったのでよく見えなかったが、多分本物の駐日大使なんだろう。
「ホスピタリティ、イヤァ、ホスピタリティ」
 飛び交う英語の中、何とかそこだけ聞き取れた。ケイティが息子に何かを言って、息子がぽつぽつ言葉を返す。そんなやり取りが何回か続いた後、我が母親の思いを代弁するように、ジョーンズが我々に告げた。
「母はここ最近病気がちで、暫く外出を控えていたんです。だけど今回、僕達家族の目を盗んで、こっそり一人で外出してしまいましてね。困ったものです。それで、久しぶりの外出だという事で、前々から興味を持っていた浴衣を着て、例の名所の滝を見に行こうと計画を立てたらしいのです。だけど母は方向音痴ですから、浴衣のレンタルサービスを行っているこのホテルに辿り着くまでも、相当に苦戦したようでして。このまま滝に行けるかどうかも不安だったようなのですが、こちらにいらっしゃるシンゴさんがご親切にも、道案内をして下さったそうで。私が滝まで母を迎えに行った時も、母はしきりにシンゴさんに感謝を伝えたいと言っておりました。それで浴衣の返却がてら、私も一言お礼をと思いまして、こちらに寄らせて頂いたというわけです」
 宇梶さんも俺も「はぁ」と合鎚を打つので精一杯だった。どちらかというと駐日大使がわざわざ来てくれたというより、その流暢な日本語能力に驚いていた。
「シンゴさん。これからもそのホスピタリティを大切にして下さい。あなたはホテルマンの鏡です」
 そう言ってジョーンズはまたも握手を求めてきた。俺がその力強い握手に応じると、ケイティが何やらジョーンズに言った。彼がすかさず通訳する。
「このホテルに来て良かったって。言葉は違っても心が通じてると思った瞬間だって、うちの母が――」
 ジョーンズがそう言い終えるや否や、ケイティは俺の手を握り、さらにその上から皺くちゃの手を重ねてきた。俺がホテルマンを目指すきっかけになった、忘れられない温もりがあった。

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