植物だけとっても面白みなかろう。ぽつりと呟いた奥平翁に「はは」と乾いた笑いを漏らす。じいさん、正当防衛ってのは先に襲われないと成立しないんだぜ。
……兎に角。
つべこべ言わずに山に出よう。
譲は奥平翁に「行ってきま~す」と力なく声をかけると、玄関から外に出た。
「はぁ、はぁ、はぁ」
山をなめていた。あれから一時間、譲の抱いた感想はそれにつきる。
とりあえず、手始めに、草原地帯に何かいないか探してみたが、見当たるのはバッタやよく分からない虫のみで、イナゴって食べられるんだよな、と思いながらもスルーした。譲の中に昆虫食の文化はない。山に入れば木の実かなにかあるだろうかと思いわけいったが、下草に足をとられ、歩くのもやっと。
「大体山自体歩くのも何年ぶりだ……?」
若者が軽装で山に入って事故に遭う、遭難する、ニュースがふと頭をよぎる。こういうことだ、今日の自分もダウンにジーパン、スニーカーと極めて軽装、山の装いではない。こんな、歩くのもやっとのなかで獣と戦える訳がない。
「軽率だった……」
ならば山菜やキノコを、と思うがそもそも食用かどうか見分ける知識もない。
自分は何を求めて、ここに来ているんだっけ。
一メートル先の下草が揺れたのを見た瞬間、突如近くで「パーン」と破裂音がした。その両方に驚き辺りを見回す。頭上の木から鳥がばたばたと飛び去った。
「銃声?」
咄嗟に、ホテル横に駐車していた軽トラを思い出す。本当の猟師も来ているんだ。
「……よーし!」
譲は右手に握っていた棍棒を握りしめる。ぐじぐじと己の不足を嘆いていても仕方がない。そうだ。どうせ来たんだからチャレンジしてみよう。
「獣でてこーい!」
気を取り直すと、譲はずんずんと山奥へと入っていった。
夜。
「なめてたわ」
宿に手ぶらて戻った譲の前に、置かれているのはコップ一杯の水。一階食堂、十九時からの夕食会で、盛大に腹の虫を鳴らしていた。
「お、どうだった佐古田くん」
結婚披露宴が出来そうな広い空間にぽつんぽつんと並べられた円卓を一人一つ贅沢に使い、各々の獲物が白いクロスの上に並んでいた。その間を、奥平翁が練り歩いている。
「見ての通りです」
譲の他には五十代とおぼしきおじさん三人と三十代位の女性が一人。それぞれの机の上には、ホテルディナーのメインのような、豪華で綺麗な盛り付けのされた肉が並んでいる。
「ほほ、山は厳しいからの」