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『ホテル狩人の宴』原豊子

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 ついにやって来た。猟期が解禁になると開設される幻の宿、その名もホテル狩人の宴。食材を山で探し、自らが捕獲・採集したものしか食べられない。しかし、集めた食材はミシュラン五ツ星のレストランで修行したシェフが、最高の料理にしたてあげてくれるという。
 譲は職場の食堂でその噂を聞いたとき、眉唾だと一笑した。話を持ってきた同僚によると、狩猟免許を持たない者でも参加できるらしい。
 そんなわけ、あるか。県庁勤務なら、狩猟法をちゃんと読め。法律を勉強しろ。
「いやいや、だから幻なんだよ!」
 唾を飛ばして熱弁する彼に、少し面倒だなと思いながらも昼食のカルビ丼を掻き込む。なんだ、味が濃すぎるな、これ。
「県内でさ、山奥の方でやってるらしいんだ、数年前から」
「なんだそれ、ちゃんと県に申請だしてやってんのか?」
「さあ、もぐりかな?」
「もぐりかなって……」
「でもさあ、面白いと思わない? 山の中で銃ぶっぱなしてさー、狩りするんだぜ」
「そうだなぁ」
 うちの県でとれるとなると猪や鹿だろうか。大型の動物に対峙する気分は、どんなものだろう。森のなかで、目標に向かって銃を撃つ。一発で、仕留められるものなのだろうか。まだ譲は、鳥獣関係の部署に配属されたことがない。
「いや、でもどうせ架空の宿だろ」
 山の濃い緑を脳裏に浮かべた時、ふと壁の時計が目に入った。もうすぐ、休憩にでて四十五分がたつ。そろそろ席に戻らねばなるまい。
 話は終わりだ、とばかりに水を一気に飲み干して立ち上がる。トレーを持つと、すかさず同僚も立ち上がった。
「それ、食べないの?」
「不味い、食えねぇ。仕事戻るぞ」
 午後から、あの書類とあれを作成して、会議の準備をして、と直ぐに頭のなかは仕事モードに切り替わっていった。

 ホテル狩人の宴のことを思い出したのは残業を終え、暗い一人暮らしの部屋に帰って来てからである。
「くっそ上司、くっそ上司が!」
 平たく言えば、職場の上司に苛ついていた。あわよくば死んでくれ、でも葬式には絶対に行ってやんねぇと思っていた。まあよくある話である。
 つまり、銃でもなんでもぶっぱなして、スカッとしたい気分だったのである。
「検索してみっか」
 どうせ、ヒットなんてしないんだろうけれど。どかっとシングルベッドにたおれこみスマホに指を這わせた。ホテル狩人の宴。検索エンジンで探しても、それらしきものは出てこない。
 その時、LINEの新着音が一人きりの部屋に響いた。母親。どうせいつもの内容のない『ちゃんと食べてるの』という生存確認だろうと思って無視しようとしたが、ふと母方の祖父が猟師だったことを思い出す。なにか知っているかもしれない。

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