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『ホテル狩人の宴』原豊子

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 譲はふー、と息を吐き、軽く目を瞑って眉間に手をあてた。落ち着け。
……成る程。所謂ご高齢というやつだ。
「耳が遠くてなぁ、大きい声で喋ってくれや!」
 仕事中でもよくあることじゃないか。
「あの! わたくし! さ、こ、だ! と! も、」
「ああ?! さこだ?!」
「はい! そうです! で、」
「宿の予約か!? お前さん××△◯×~」
「はい?!」
 ここからの会話は、一重に奥平翁のご年齢のお陰で同じ内容をいったり来たりするか聞き取れないかの二択だったので割愛する。概要だけお伝えすると、確かにホテル狩人の宴は奥平翁が猟期にだけ運営しており、彼が保有している山の中で行われるプランらしい。幻と言われているのは単に彼が高齢のためまた資金不足もあり広告やインターネットでの宣伝を打つことができなかった、というのが真相のようだ。
 時はすでに猟期の始まる十一月第二週を過ぎていたが空きがあるとのことだったので、直ぐに休みを計算し、譲は予約をとった。仕事なんて、知ったことかの意気である。それに、もしかしたら何か違反しているヤバイ宿かもしれない可能性が高い。調査だ、調査、県職として仕事の一環、と自らに言い聞かせる。
 本当は内容についてもっと詳しく知りたかったのだが、奥平翁のこの調子ではこれ以上を聞き出すのは困難だと悟り、ホテルの住所を聞いて電話を切った。
 というのが、今までの経緯である。
 奥平翁の宿はカーナビに住所をいれると県境にある山々の一つにあった。しかし実際に走ってみると舗装道路の上には落ち葉が散乱し、対向車とすれ違えないような細い場所で、ナビは導くものの本当にこれで合っているのだろうかと心配になってくる。鬱蒼とした木々のなかをたっぷり一時間以上走らされて、長い坂道の上、やっとそれらしき建物が急に木々の合間に見えてきた。煮しまったような茶色の、平たい建物。広い草原のような空間がそれの回りを取り囲んでいる。こんな場所が、山の上にあるなんて。少し信じられないような景色に圧倒されていると、なだらかに道は下りに転じ、分かれ道に出た。そこに、日焼けした看板があり、「お泊まりのかたはこちら」とある。矢印に従ってハンドルを切ると、低い木立を抜け、急に視界がわっと開けた。先ほど見えた、草原の端に到達したらしい。
 建物まで、百メートルほどあった。あれが、廃業間際の奥平翁のホテルか。譲はスピードを緩めて、仔細に茶色のそれを観察する。外壁には蔦植物が絡み付いているが、煉瓦調のそれには何となくマッチしていておしゃれに見えないこともない。建物自体の外観は古く、前時代の物に思えた。全く広い窓がない。よく言えば、レトロ。正直に言えば、ボロ。しかし、大きさとこの不便な立地から察するに隠れ家リゾートのような宿を目指しているのだろうか。
 既に何台か車が停まっている所に、緩やかに駐する。左から、白の軽トラ、青の軽トラ、オレンジのウェイク、白の軽トラ、譲の赤のマーチ。
 流石狩人の集まる宿、軽トラが多い。譲の祖父も、生前は軽トラを乗り回していた。
 車を降りて、助手席に載せていたボストンバッグを掴むと、玄関らしきガラス張りの扉に歩いていく。自動扉かと思ったが、スイッチが切ってあるようで人一人が通れる位の隙間を開けて止まっていた。うん、廃業寸前感が出ている。
「ごめんくださーい」

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