「お仕事は何をされてるんですか?」
私の予想では外資系の企業に勤めるキャリアウーマンだ。きっと独身。男よりも仕事を優先している。
「今は無職。先月まではパートに出てたけどね」
意外だった。その意外さが私の興味をより一層掻き立てる。
「そうなんですね、意外です。あの、私は独身なんですが……詩織さんは?」
「ストレートな質問ね」と笑う詩織さんは嫌な顔せずに応える。
「結婚してるわよ」
私はハニージンジャーティーを一口飲んだ。
人の印象というものは面白い。そうなると、旦那さんは外資系の企業に勤める高給取りで、暇を持て余してパート勤めに出てみたが、世間慣れしていない詩織さんには仕事が続かなかったということか。
「優しい旦那様ですね、一人旅を許してくれるなんて。うらやましいです」
詩織さんはため息を吐いた。
「仕事は一生懸命だけど、稼ぎが悪くてねぇ」
ここまで予想が外れるとは、競馬で言うところの万馬券といったところだろうか。
「あなたは? お仕事は?」
「私はオペレーターしてます、コールセンターの」
「もう長いの?」
大学卒業後に就いた憧れだったアパレル系の営業職は二年で辞めた。指折り数えてみる。
「八年くらい、ですね」
その年月に私自身も改めて驚かされる。
「大変そうな仕事なのに、偉いわね」
「そんなことないですよ」と笑みを浮かべたが、今回の一人旅を決定的なものにした原因は仕事と恋愛だった。
大学時代の友人から、結婚式の案内が届いた。結婚式に出席するのは八回目。恐らく、これで友人の結婚式に出席するのは最後になると思われる。私以外のみんなは結婚してしまった。つまり、私一人が置いてけぼりだ。
そんなタイミングで、仕事では私の弱った心を深く抉るクレームの電話が重なったのだ。
「オペレーターと言えば、申し訳ないって思ってることがあってね」
「どんなことですか?」
「これなんだけどね」と詩織さんがショルダーバッグからチョコレートを取り出した。
「あっ!」
それを見た私は思わず声をあげた。
「知ってるの?」
知ってるも何もこのチョコレートのせいで私は……
それは電話対応締切の三分前に鳴った電話だった。
「どうなってるんでしょうか、お宅様の商品は」
「申し訳ございません、もし問題があるようでしたらご返金させて頂きます」
「問題とかどうとかじゃなくて、誇大広告じゃないのかしら。どこが痩せるチョコレートよ、何の効果もないですが」
私はこうゆう風に淡々と苦情を言ってくるお客が一番苦手だ。それならば怒鳴りつけてくれる方がいい。冷静に責めらると、どこを着地点と定めれば良いのか分からない。