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『新緑の頃に』ウダ・タマキ

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ドアが開く―

「前菜でございます。タコと海老のマリネです」
「ありがとうございます」
 そして「清宮さん、二名様バルコニー席へご案内お願いします」と店内からの声。
 彼女の名前は清宮さんというらしい。その雰囲気だけではなく、名前まで爽やかだ。
そんなことに感心していると、やがて詩織さんと私の間には初老の夫婦と思しき二人が案内されて席に着いた。
 もう少し話をしたかったが、料理を運んでまで詩織さんのテーブルへ移るのは不自然だし彼女にも迷惑だ。変に意識させるのも申し訳ないので、私は運ばれてくる料理に集中した。
 どの料理も素材が新鮮で美味しかった。特に『天然真鯛のカルパッチョ』が私のお気に入り。「ご馳走さまでした」と手を合わせ、少しゆっくりと景色を眺めた。一つ一つ旅の思い出をしっかりと記憶に残しておきたかった。
「よし、次だ」
 席を立つと詩織さんと目が合った。私が「お先に失礼します」と挨拶をすると、詩織さんは左手を小さく挙げて応えた。
 彼女はとてもかっこいい大人の女性だ。きっと、私とは全く違う人生を歩んでいるに違いない。
 私みたいにコールセンターで毎日クレームばかり聞いている女性ではなくて。
 私みたいに三十過ぎて彼氏いない歴五年なんてことはなくて。
 私みたいに実家暮らしで親のすねかじりなんかじゃなくて。

私みたいに-

 数え上げればどんどん虚しさが募る。
こんな服装してくるんじゃなかった。いつもみたいに機能性重視のTシャツ、ジーパンが身の丈に合っていたのだ。
「ダメだダメだ」
 私の悪い癖、それは何でもすぐに悪い方向に考えてしまうこと。気が付けば少し前傾になっている姿勢をしっかりと伸ばした。
「次は……この道を行けばいいのか」
 朝平神社はこの山の頂上付近にあるようだ。この神社には本殿に続く長い階段があり、ちょうど三百段の階段を上り鳥居をくぐって後ろを振り返れば海が一望できるらしい。そこが人気のパワースポットなのだ。
 そんなにスピリチュアルなものを信じているわけではないが、神社から鳥居をバックに海が見える景色はまた違った趣きがあり、格別な美しさだと思うのだ。
 神社へと続く山の坂道なだらかだが距離が長い。漸く辿り着いた参道には昔ながらの土産屋さんが軒を連ねている。その先に見える階段は、これまでの坂道とは違い、かなりの急勾配である。
「ちょうど三百段よ。無理せんとね」と、すでに肩で息をする私に向かって漬物屋さんのおばさんが声をかけてきた。
「ありがとうございます、なかなか大変ですね」
「良かったら冷たいお茶でも飲んで息を整えなさい」
 私はその言葉に甘え、店の前に置かれた木製のベンチに腰を下ろした。すぐにおばさんがよく冷えたお茶と小皿に盛り付けたきゅうりの浅漬けを持って来てくれる。
「うわぁ、ありがとうございます!」

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