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『新緑の頃に』ウダ・タマキ

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 そう、青い海が一望できるイタリアンのお店が第一の目的地だった。地元の料理がイタリアン? という話だが、近海でとれる魚介類をふんだんに使った料理が食べられるそうだ。
「いらっしゃいませ」
 アルバイトの女子大生だろうか。白いブラウスに赤いスカーフがよく似合う可愛らしい子が出迎えてくれた。
 平日昼間の店内には二組のカップルと女子三人組の計七人。私にとって、一人で食事に来るのはなかなか勇気がいること。真っ先に客層を確認した。
「お一人様でしょうか?」
「えっ、ええ」
「どうぞ」
「あの、外の席、座れます?」
「もちろんです、どうぞ」
 私はバルコニーの席に座った。店内は海を見慣れた地元の客ばかりなのだろうか、バルコニーに客は誰も居なかった。
「どうぞ」とメニューを手渡されたが、ホームページでチェック済みの私はすでに注文を決めていた。一通りメニューに目を通したふりをして「Aランチお願いします」とメニューを閉じて返却した。
「気持ちいい」
 思わず声が漏れるのも仕方ない。目に映る景色、耳に届く波の音と鳥のさえずり、肌に感じる空気、その全てが気持ちいいのだから。
 そうやって一人の時間に酔いしれていると「どうぞ」と、さっきのアルバイトの女子大生が客を案内してきたのを背後に感じた。せっかく贅沢な一人の空間だったが、まあ仕方ない。私はそっとそちらに視線を向けた。
 赤い花柄の白いワンピースに大きな赤いリボンの付いたストローハット。見覚えのある姿はフロントで会った佐山詩織さんだった。
 彼女も私と同じように二人がけのテーブル席に着く。それぞれ端のテーブルに距離を置きながらも向かい合わせになった。
 私は思わず「どうも」と呟き会釈をした。しかし、その瞬間、私は「しまった」と思った。私たちはフロントで出会ったわけではなく、ただ私が一方的に彼女を気にしていただけで、彼女からすれば全く面識のない赤の他人に過ぎない。
「こんにちは」
 詩織さんは突然の挨拶にも動じることなく、穏やかに笑みを浮かべて返すと「良いところね」と、次は彼女から切り出した。
「ええ、とてもきれいですね」
 私とよく似た名前と背格好。近くで見る彼女は、私より一回りくらい年上だろうか。その喋り方は私なんかよりもずっと大人で、落ち着きが感じられる。
「お一人で旅行?」
「えぇ、そうです」
 詩織さんの口角が少し上がったのが明らかだった。
「人生に少し疲れてる、ってやつね?」
「いえ、まぁ、その……」
 初対面にも関わらず、私は詩織さんに悩みを聞いてもらいたかった。しかし、出会って僅か数分、たった一言か二言の短い言葉を交わしただけの相手に人生相談とは厚かましい話だ。

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