菜子さんが照れたように頷く。修也と別れてから、良いご縁に恵まれて結婚に至ったらしい。
「で、私は大学職員ー。こんな見た目だから学校の中歩いてるとたまに学生と間違われちゃうんだけどねー」
確かにまあやさんは学生と言われても信じてしまいそう。実際には私と同い年の27歳だそうだ。
「んでー、玲さんは編集者だよねー」
「育児雑誌のね。おかげで子どもいないのに育て方だけは詳しくなっちゃったから、みんなに子どもができたら助けるよ」
仲良くなった気分でいたけれど、まだ数時間しか一緒にいない。この人たちについて知らないことがたくさんあって、その後も話は弾んだ。そのうち、共通の知っている人間である修也の話題になる。
「趣味でバンド活動やってる友だちのライブの手伝いに行ったら、修也も来てたのが最初」
私が彼との出会いを話すと、みんながうんうんと話を聞いてくれる。高校でクラスメイトとして修也と出会い付き合うことになった菜子さんと、大学のサークルで彼と知り合って付き合っていた玲さんが、少し変わった私と彼との出会いに目を丸くした。私の前の前の彼女だったらしいまあやさんは、「私は合コンで初めて喋ったー」と教えてくれる。
「みんな出会い方が全然違うんだね」
「ねー。あ……それで、好きな人ができたから別れてほしいって言われて別れたんだ。一か月ちょっと前かな」
「マジか。修也ってすぐ人のこと好きになるからなあ」
「わかる。恋愛に限らず男の人とかでもすぐに、この人はいい人だーってほいほいついていく感じ」
「わかるー! 大丈夫かな、あいつ」
「心配だねー。次の彼女さんがしっかりした人であることを願うのみだよ」
明るくそんなやり取りをしているうちに、私はふいに寂しくなった。考えてみれば、修也と別れてからまだ一か月しか経っていないとも言えるのだ。私に気持ちが向いていない相手と無理して付き合っても苦しいだけだろうし、揉め事も増えるだろうから、彼の別れたいという申し出を私はあっさりと受け入れた。未練もない。だけど時間の進み方は、良くも悪くも一日二十四時間でしかない。彼女たち三人に比べるとまだ完ぺきに心の整理がついたとは言えないし、吹っ切れていないのかもしれない。
いつの間にか、ピザの皿は空になり、食後のコーヒーが湯気を立てていた。ついさっきまで笑っていた私が急に黙り込んでしまったから、三人が心配そうに私の顔をのぞき見ている。
「理紗さん……?」
私はコーヒーのカップにゆっくりと口をつけてから、みんなを見た。この人たちだから、言える気がした。
「修也って人を信じやすいとことか、馬鹿なところがあるじゃない?」
三人が目を見合わせて、ほんのりと微笑み合う。
「そうだね。わかる」
菜子さんが優しい声でそう言った。
「だけど私、たぶんそういうところが好きだった。馬鹿みたいに私のこと好きになって馬鹿みたいに他の人のこと好きになって、馬鹿みたいに正直に好きな人ができたって私に話してくれた、そういうところが、好きだったんだろうなって」
私が再び口を閉ざしてしんみりとした空気が流れたのは数秒のことだった。沈黙を破ったのは、玲さん。
「そうだね。言われてみればそうかも。あいつ、良くも悪くも裏表ないもんね」
菜子さんがうなずく。
「隠し事をしない人だったのは評価できると思う」
まあやさんがふふっと笑った。
「修也くんが好きって言ったら本当に好かれてるんだろうなって安心できた。でもさ……うちらこんなんで大丈夫かな。ダメ男にばっか引っかかっちゃう悲しい女の集まりみたいになってるけど」