理解の追いつかない私などお構いなしに、三人はさあ行きましょうと言わんばかりに私に微笑みかけた。
「よく知らない人とごはんを食べたりお茶したりしても緊張して美味しくないでしょ? だから、新しいメンバーが加わるときは体を動かしたり何か他のことで楽しめる場所に行くことにしてるの。今日みたいな水族館とか、映画見たりとか。まあやさんのときは遊園地だったかな」
ガラスケースの向こう側を泳ぐイワシの大群を眺めながら、隣に立つ玲さんがそう言う。確かにこの人たちと突然食事をするよりは、こうして海の生き物たちを見ているほうがありがたい。あんまり喋らなくてもいいし、気をつかわなくていい。
駅前から水族館に連れてこられて薄暗い展示室で静かに過ごしているうちにとりあえずわかったのは、これは修也の元カノたちが集まる女子会だということ。だから、修也会。そして私は最新の元カノとして会に呼ばれた新参者。なるほど。
「だけどいったい、何がきっかけで始まったんですか? 修也会」
玲さんに尋ねると、彼女はイワシから目を離してちらりと私を見た。
「発案者は私なんだけどね。最初は、修也と別れてから数か月後かな。修也がこれまでどんな女の子と付き合ってきて、私と別れてからどんな女の子と付き合ってるのかなっていう興味がわいてきて。で、修也から聞き出せるだけの元カノの連絡先を聞いて、まずは菜子さんに会ってみたの。そしたら仲良くなっちゃって」
「へえ。面白いですね」
「でしょ? 修也でけっこう恋多き男じゃない? だから、いっそのこと元カノみんな集めてサークルみたいにしちゃえばいいんじゃないのって思いついちゃって、今に至るわけ。全員同じ男の人と付き合ってたわけだから、似たような性格の女の子ばかりかと思えばいろんなタイプがいて、超意外だった」
話を聞きながら、近くの水槽でマンボウを見ながらはしゃいでいるまあやさんと菜子さに目をやる。確かに服装は似ても似つかないし、高い声で笑うまあやさんと、低めの声音で何かを言い返している菜子さんは、まったく違った。もちろん、私と玲さんも、違う。
視線に気づいたのか、まあやさんがこちらを向いて、目が合う。すると、笑顔で手招きされた。
「二人ともー、来て来て! マンボウ超かわいいよ。やばいー」
玲さんが呆れた笑みとともに小さくため息をつく。
「なーにがやばいんだか。ま、こんなことでもなければ友だちになってないタイプだわ」
言いながらもどこか彼女を可愛がっているような緩んだ笑みを見せる玲さんにつられて、私もつい頬を緩めた。
水族館を出た私たちは、ランチをして解散しようという話になり、近くのカフェに入った。最初に対面したときのよそよそしさはもうなくなって、昔からの友だちと一緒にいる気分だ。玲さんの言葉通り、最初はごはんよりも遊びに行ってしまったほうが打ち解けられるのかもしれない。
「理紗さんは、何の仕事してるの?」
注文したピザを四人で食べていると、菜子さんに質問された。口の中に残っていたチーズを飲み込んで、口を開く。
「お菓子メーカー。菜子さんは?」
「私は市役所勤務。いいね、お菓子の会社なんだ」
まあやさんがにこにこと話に入ってくる。
「菜子さん、同じ市役所の同僚の人と最近結婚したんだよ」
「えっ、そうなんだ」