と言った。瞳は鞄を取り、気まずそうに私を見た後、部屋を出る。部屋には私と峻の二人だけが残った。
「どういうこと?」
「君、僕が孤独な時、傍にいてくれたことある?」
峻の声は冷たかった。そして私は何も答えることができなかった。
「君といても、僕はずっと一人だった。君の話を聞いて、君が欲しい言葉を投げかけ続けた。そうすると君が笑ってくれたから。君が孤独を感じずに済むから。でも君は、僕が本当にいてほしいとき、いつも知らんふりをしていたね」
「そんなことない!」
「本当?でも僕は今、そう思っているよ」
何も言い返せなかった。峻と付き合うようになった私は、段々と友達も作れるようになっていった。そして友達と遊んで私が満たされているとき、峻から連絡が来ても無視してしまうことが増えていった。この時、彼は孤独を感じていたのだろうか。後悔が今更押し寄せてくる。
「きっと僕たち、ただお互いの寂しさを埋めたいだけだったんだよ。こんなの付き合ってるなんて言えない。別れよう」
浮気したことを徹底的に責めるつもりだったのに、峻のことを責める権利が、私にはない気がした。
「だからごめん。鍵、返してほしい」
峻の声は震えていた。私は持っていた鍵を峻に渡して、部屋を出た。振り返ることはなかった。峻の顔を見たくなかった。もし見てしまったら、自分の愚かさに押しつぶされそうだったから。
外に出てスマホを見ると、瞳から着信があった。折り返し電話をかけると、瞳はすぐ出た。
「もしもし?さっきはその…、ごめん。峻に相談があるって呼ばれていったら急に抱きついてきて …」
「峻とは別れた」
「え?」
「だから二人でお幸せに。じゃあ」
瞳は何か言っていたが、電話を切った。そのあともしばらく瞳から着信が来ていたがすべて無視した。 しばらくして、瞳から留守電が入っていた。
「アンタ、独りよがりもいい加減にしなさいよ!峻君がどんな思いでアンタと付き合ってたかわかる!?私の話も聞かないで、自分ばっかり…、もううんざりよ!」
ここで留守電は切れた。こっちがうんざりだよ。そう思った私は、暗がりの街中をただただ歩き、気づいたらホテルの前に立っていた…。
私は昨日あった出来事を多田さんに一気に話すと、マリブコークを一気にあおった。多田さんは私を見て
「それは辛かったわね 」と一言つぶやいた。
それから私と多田さんの間に、少しの沈黙が流れた。そしてそのあと、多田さんがゆっ くりと話し始めた。
「毎日のテンポってとても早いじゃない?そうすると、何でもかんでも効率重視。仕事もそうだし、趣味も、そして、人と過ごす時間も」
多田さんはワインを一口飲んだ。