と震える声を振り絞ると、しばらく黙っていた夫が、ねえアッコ、と呟くと、私の肩をぽん、と叩いた。肩に触れられたことに驚いて顔を上げると、すぐそばで夫が浮かびながら私を見つめている。
「アッコ、手を伸ばしてみて」
「え、危ないんじゃないの?」
「ううん、大丈夫。手のひらをさ、こう、ちょっと上に向けて」
言われた通りに手のひらを上に向けて伸ばすと、シュウジがまた高度を落として、同じように私に手を伸ばし、手のひらを合わせた。
「掴んじゃだめだよ」
「うん」
手と手を合わせて見つめ合っていると、自然と笑みがこぼれてきた。ふと下を見ると、沢山の人たちが固唾を飲んで私たちを見守っていた。
「う、恥ずかし……」
私が慌てて手をひっこめると、シュウジが少しバランスを崩して、うわっ、と声を上げた。
「ごめん! 大丈夫?」
「おい! 危ないって!」
と叫びながら夫は笑い、つられて私も笑う。
「皆に見られてると思ったら急に恥ずかしくなっちゃったのよ」
「恥ずかしかないよ。皆、俺たちを応援してくれてるはずだ」
「そうなの?」
「うん。さっきSNSで色んな反響があがってるのを見てた」
「ねえ、だから携帯見ながら飛ぶのやめときなよ」
「ごめんごめん、でもさ、きっと皆も諦めたくないんだよ。大切な人との繋がりを諦めたくないんだ。だからね、俺も絶対諦めない。アッコがなんて言おうと何度でもここへやってくる。この機械だってもっと改良できるかもしれないし、それに、科学の技術が発展すれば、移住だってできるようになるかもしれない」
「うん。でもなんか偉そうに言ってるけど、科学とか技術とかはあなたがやるわけじゃないでしょ」
「そうさ、俺はお願いするだけだよ」
「ばか、胸を張って言うことじゃないわよ」
「まあとにかく、俺は諦めないよ。だからアッコも諦めないで。いつか世界がまたくっつくまで、何回でもここへやってくる。なんならこの機械を操縦するインストラクターになって、下で見ている人たちも会いたい人に会えるように手伝いをしてもいいさ」
「やめてよ、他の人まで危険な目に合わせないでよ」
「ごめんごめん、冗談。あ、だめだ、もう燃料が切れそうだ……」
「うそ」
「うん、そろそろお別れだ」
「寂しい」
「大丈夫、またすぐ来るから」
「またすぐ来てよ」
「うん」
「うん」
と、お互いに頷き合って目を合わせる。夫は最後に手を振って私と別れると、そのまま猛スピードで遥か上空まで浮かび上がり、ということは夫からするとただただ急降下しているわけであり、豆粒くらいの大きさになった頃にぱっと、パラシュートが開き、あとはゆらゆらと揺れながらゆっくりと、夫は反対側の世界に降りていった。夫のぶら下がっている赤と黄色の縞模様のパラシュートをぼうっと眺めていると、プルプル、と携帯電話の音が鳴った。
「もしもし」