「絶対死ぬでしょ。そういうのはさ、飛行機とかヘリコプターとか、自衛隊の人に任せた方がいいんじゃないの?」
「それじゃダメなんだよ、そんな危険な目に自衛隊の人を合わせちゃだめだ。人命救助だってね、自らの命の安全が確保できてこそだから」
「別にあなたが偉そうに言うことじゃないけど。なんでそんな危険なことをあんたみたいな民間人がするのよ」
「俺のは有志でやってるから、それにこんな感じで飛んだ方がいいんだよ。絵的にも」
「絵的にも? なにそれ」
「いや、まあそれはこっちの話だけど。とにかくそっちへ行くから、早くビルの屋上まで来てくれよ」
「ちょっと、話のテンポが早いわ。少し待っててよ」
「待てないよ。あんまり長い話にしたくないから、文字数が増えても困るんだ」
「文字数?」
「いや、まあそれもこっちの話。いいから早くして!」
文字数の影響もあり、私はすぐにビルの屋上まで飛ぶような速さでやってきて、空を見上げた。見上げた空には相も変わらず私の住む街の半分があった。その見上げた街から、赤い光を放つ小さな小さな隕石のような物体がこっちへ向かって落ちてきていた。いや、あれは隕石が落ちてきているのではなく、夫がこちらの街を目指して飛んでいる姿かもしれない。よろよろと揺れながら落ちるその小さな隕石みたいな光は徐々に大きくなってきて、よく見れば夫が背負っていたロケットの噴射口が発する炎も見えそうだった。それもすごいスピードで落ちてきている。あれは本当に、夫だろうか。だとしたら大丈夫なのか。あれがもし本当に夫なら、まじで死ぬんではないか。と、不安に駆られていると、夫から着信がかかってきていた。
「もしもし、アッコ?」
「もしもしじゃないよ! 今どこにいるの?」
「今ね、そっちに向かって飛んでる」
「ああ、やっぱり……」
やはりあの浮遊物体は夫だった。
「驚いた?」
「呆れてる……」
「なんでよ、喜んでくれると思ったのに」
「喜べないわよ。それによく空飛びながら電話できるね」
「ああこれ? 操作にも少し慣れてきてさ、ちょっと電話してみようと思ったらできちゃったよ」
「シュウジそんなに器用だったっけ」
「分かんないけど、でももう結構近くまで来てないかな? 俺の顔見える?」
「うーん、見えない。でもなんか形は見えるようになってきたかも」
「おー。いいね、あともう少しだ」
と言って、うわっ、と声がすると夫が体のバランスを崩してふらふらと揺れた。
「ちょっと! 大丈夫?」
「ごめんごめん。携帯見てたらバランス崩しちゃった」
「やめなよ、危ないから」
「ごめんごめん」
「もう……ほんと、なにしてんの」
「ごめんよ。なんだか俺、いつも謝ってばっかりだ」
「そうよ」
「ほんとにごめん、でもね、俺、変わりたかったんだ。だからアッコのこと、こんな意味わからない災害なんかで諦めたくないし、それでこうやって空を飛んでる。空を飛ぶってすごいね、いい気分だよ」
「何その芝居じみた感じ。もういいから、気持ちは嬉しかったからさ、これ以上危険なことしないで……」
「でもあとちょっとなんだよ。ほら、俺はもうアッコの顔見えてきた」
「あ、ほんとだ」
「ね、だからもう安心してよ」