「まあでも……それだけで言ってるんじゃないの。お互いの今後のためを思って言っているの」
「それはちがうよ、俺はアッコのこと幸せにするって誓ったんだ」
「誓ったとかそんな大袈裟な言い方やめてよ。今さら綺麗ごと言って」
「綺麗ごとなんかじゃない。なんでそんなに悲観的になるの……」
「悲観的にもなるわよ! だって世界がこんなことになってるんだもん。それに私、このまま一人で死んでいくのは嫌よ……」
「それは、俺が一人にしないよ……」
「どうやって? そんなの、シュウジにどうにかできる話じゃないでしょう」
「いいや、俺がなんとかする」
「無理。絶対無理。もうやめましょ、私たちいつも同じ話ばっかりじゃない。一回電話切るから」
「アッコ……」と、悲しげにいう夫の声を無視して電話を切った。
何をいまさら、というのが私の正直な気持ちだった。今まで散々浮気もすれば約束だって幾度破られたか分からない。予想していた痴情のもつれではなかったけれど、地上のもつれのせいでいよいよ私たちは別れてしまうのだ、と半ば観念していたのに、この期に及んでどうしてそこまでして夫は私との婚姻関係を続けようとしたがるのか。
私の周りでは、離ればなれになった夫婦たちのほとんどが離婚した。悲しいけれど、これから先の長い人生を過ごすには、手の届かない誰かを大事にするよりも、近くにいる人を大切にして暮らした方が有意義だと皆が判断した結果だ。私もそう思う。会えない恋人より、会いに行けるアイドル。別にアイドルじゃなくてもいいけど、そのくらい会えるか会えないかというのは夫婦関係にとっては重要な問題だった。
けれども夫の必死な姿を見ていると、段々と夫を信じたい気持ちも芽生えてくるのが本音だった。本当は夫に会いたい。会って顔を見合わせて話をしたい。そう思ってしまう。それゆえに、会えないまま連絡を取り合っているこの状態が辛くてしかたなかった。
私はもう限界だった。携帯電話だ。携帯電話を変えてしまえば夫と連絡を取る手段がなくなる。そうして夫との繋がりを無理にでも断たないと。そう決心してから、すぐに携帯ショップの前まできたが、これで本当に夫と会えなくなるのだと思うとそこから先の一歩が踏み出せない。しばらくショップの前で立ち竦んでいると、夫から着信がきて、無視すればいいのだが私は電話に出てしまう。
「もしもし、アッコ。今どこにいる? これから会いに行くから、どこか高いビルの屋上に向ってくれない?」
「なに? 会いに行くって、どうやって?」
「いやね、俺さ、科学者の友達いるんだけど、そいつにロケット作ってもらったんだよ」
「はあ? なにそれ、阿保みたい」
「これで飛ぶ。今ラインで写真送ったからさ、ちょっと見てみて」
と、夫から送られてきた写真には、どう見てもただのリュックサックにしか見えないバックに、噴射式のエンジンが備え付けてあるのを背負った夫がピースサインをしている写真だった。
「なにこれ、こんなので飛ぶの?」
「そう」