「まあねえ、って、なんでそんな呑気なの」
地上がもつれた結果、私と夫は運悪くそのもつれに巻き込まれ、あえなく引き離されてしまった。お互いの世界を行き来する方法はまだ見つかっていない。しかしながら電波だけは互いの地上に通じていたため、連絡を取ることが可能だった。しかしまだ地上のもつれに関しては、原因の究明はおろか、事態の全貌を把握するにもかなりの時間を要するだろうと言われていた。
現時点で入手されている情報の中で、まさに地上のもつれを起こした中心地が私たちの住んでいた街であることが分かっていて、この街を中心に地上が螺旋上にねじれて地球全体を二つに分断させているということだった。だからこうして分断された地上同士が向かい合わせに存在しているのは世界でもおそらくはこの街だけだということだった。
「でもさあ、小さいけどアッコの住む家だってここから見えるのに、会えないんだよな」
「うん……そうだね」
地上がもつれてから数日間は、誰もがこの世界の終わりを覚悟して絶望に暮れていたものだったが、はじめ余震といったらよいのか、大きな揺れがひっきりなしに起きていたにもかかわらず、地球そのもののシステムには破綻はなく、それが段々と安定してきて世界自体は終わりそうにないらしい、と分かってくると皆少し余裕が出てきて、人々も段々とそれなりに元の生活に戻っていった。
しかし分断された世界同士が交わることができないと分かると、大切な家族を反対側の世界に奪われた人たちは徐々に事態の大きさに改めて気づかされていった。電話もメールもできるのに、愛する家族とはもう二度と触れ合うことは叶わないのかもしれない。そんな予感が、ほとんど現実であることに気づくと、人々は元の家族とこのまま家族でいられるのかという判断を迫られることになった。
もちろん離れていても家族だ、血の繋がりは切っても切れない、といって泣きながら家族を追い求めるものがほとんどであったが、もう二度と出会えないのであれば家族関係を解消した方が、お互いがお互いの世界で生きていく上でよいのではないか、という判断も徐々に散見された。とくに私と夫のように元々血の繋がりのなかった夫婦関係であれば尚更だった。地上のもつれが原因で、沢山の夫婦たちが離婚をして、新しい生活を志向し始めていた。
私と夫との間でも、時間が経過していくにつれ、電話をすれば決まって離婚をするかしないかの話し合いが行われるようになった。私としては、元々夫に信頼を置いてなかったのもあるし、まだ二人には子供もいなかったため、お互いのことを考えれば離婚する方が賢明だと思っていた。夫も二度と会えない妻と結婚したまま生活をするより、別れた方が独身時代のように女性遊びもできるし好都合だろうと離婚を提案したのだが、夫が離婚を認めようとしなかったのである。
「どうして? シュウジだって離婚した方が都合いいじゃない」
「やだよ。だって約束したじゃないか。もう絶対浮気もしないし、二度とアッコのこと悲しませたりしないって」
「そんなの口だけよ。今までだって散々裏切ってきたんだし」
「昔のことはごめん、本当に反省してるんだ……」