早く24時にならないだろうか・・・。
「閉店です。」と早く言ってくれ。
24時。
閉店の時間だ。
お店の片付けも大体終わり、あとは清算だけが残っている。
結局あの男性は最後まで一人だった。誰かを待っていたのか?単にコーヒーを飲みに来て最後まで粘った変わり者か?それも分からずに終わってしまった。
「失礼します。閉店のお時間になりますので。」
「あ、すみません。」
声をかけると男性は申し訳なさそうに頭を下げた。残っているコーヒーを一気に飲み干し、テーブルに置いてあるスマートフォンをスーツのポケットにしまう―――――。
分かっていた事だけれど来なかった。お店の人にも声をかけられ閉店の時間を迎えた。
今日はこのホテルに泊まる。終電があるにはあるが、万が一に備えて一応部屋を取っておいた。
「浅ましいなぁ。」
思わずこぼれる。こんな時にでもよこしまな気持ちを持ち込んでいた自分が情けない。明日も仕事だ。もちろん彼女とも顔を合わせる。一体どんな顔をして会えばいいのだろうか。
「・・・。」
いや、そんな必要はどこにもないのかもしれない。きっと彼女は何事もなかったかのような顔をして接してくるだろう。いや、もしかしたら無視されるかもしれない。それはちょっと辛い・・・。
「3700円になります。」
男性は財布からお金を取り出し、トレーの上に置く。
「すみません、なんか長居をしてしまって。」
「いえ、そんな事ありません。」
「雨止みませんね。」
「そうですね、明後日くらいまで降るみたいですね。」
「たまりませんね。」
「今日はこちらにお泊りですか?」
「あ、はい。」
「そうですか。」
「ごちそうさまです。」
「ありがとうございます。お休みなさい。」
「お休みなさい。」
小さく頭を下げて男性はお店を出て行った。
「・・・。」