「離婚ね・・・。」
店内で誰にも聞こえないようにつぶやく。
考えるほど落ち込む。
家に帰りたくない。
23時。
相変わらず外はどしゃ降り。下手をするとさっきより強くなっているかもしれない。
佐伯さんは22時であがり、ついでに他のスタッフもあがって貰った。
お客も若いカップルとスーツの男性客しかいない。
ラストオーダーの時間だ。
始めはカップル。
「失礼します。ラストオーダーですがご注文は?」
「あ、じゃあモスコミュール。」
「私、カシスオレンジ。」
「畏まりました。」
続いてスーツの男性。
「ラストオーダーですが、ご注文は?」
「じゃあコーヒーをおかわり出来ますか?」
「畏まりました。」
カウンターに戻り、ドリンクを作り始める。
またコーヒーか・・・。
気にはなっていたが、あの男性はずっといる。どれくらいだろうか?19時位にはいたと思うが軽めの軽食を頼んで、その後はずっとコーヒーを飲んでいる。
男性はたまに外をチラチラと眺める。
スマートフォンの画面もたまに見る。
待ち合わせだろうか。
こんなどしゃ降りの雨の日に?
自分には全く関係ないが、たぶん恋人か、もしくは片想いの人か?
暇も手伝って余計な詮索を始める。
来ないだろうな・・・。
実際に誰を待っているのかは知らないが、こちらが勝手に妄想を広げる。
短く綺麗に整えられた髪型、キチンとプレスしてあるスーツ、見た目は好青年という感じ。
きっと何か特別な日なのだろう。しかし想いを寄せる相手は来ず。意気消沈の中でごく微かな望みをかけて待ち続けている。
と、言った所だろうか。
「失礼します。」
出来上がった飲み物をそれぞれのテーブルに置く。
コーヒーの男性は「どうも。」と言って少し頭を下げる。
「来るといいですね。」