『君との歪なコンビネーション』
粟生深泥
(『彦一どんとタヌキ(熊本県民話)』)
北芝開発の第二開発部に勤める望月希は、第一開発部でエースとして活躍する動機の都子のことを疎ましく思っていた。都子の業務を滞らせるため、望月は都子が苦手とする人物に第一開発部の新製品を売り込むが企みは不発に終わる。望月は次の手段として、第一開発部のキャパを越える売込みをかけた。
『見ないで』
香久山ゆみ
(『鶴の恩返し』)
「見ないで」なんて恥らう女の子が好きだ。大学構内で出会った都留さんはまさに俺の好みにストライク。仲良くなろうと近付くものの、いっこう彼女の内面に触れられない。「見ないで」と頑なに隠す白いノート。構内で彼女を知る人は誰もいない。俺はそんな彼女の秘密を覗いてしまう。
『笑顔の花』
染井千奈美
(『花咲か爺さん』)
「花咲かじいさん」と呼ばれる“夫”の物忘れが進行し、愛犬シロのことを忘れてしまった。妻である私のことも忘れられるのではないかとの不安や忘れられたシロのことを思い胸が痛い日々。かつてシロのことを想って撒いた灰を、シロを忘れてしまった夫が今もまき続ける理由とは…
『やさしい足音』
ウダ・タマキ
(『ごんぎつね』)
内気で繊細な小学生の貫太は、些細なことで不登校となる。ひとり退屈な日々を送っていたが、ある日から、誰かが家のポストに手紙を入れるようになった。始めの頃はそれが誰だろうと気にしていなかったが、手紙に貫太との思い出が綴られるようになり、誰が手紙を届けているのか知りたくなるのだった。
『四鷲市公共施設カタツムリ』
宮沢早紀
(『かたつむり(童謡)』)
市役所職員の僕は公共施設課へ異動する。課にはバリケードのようなものを作って働く岡田さんがおり、年次の割に簡単な仕事ばかりやっている。岡田さんのように楽に働きたいという思いを持つ僕だが、周囲の岡田さんに対する冷たい視線に触れ、岡田さんほど強くいられないという思いとの間で揺れ動く。
『フライ』
太田純平
(『蠅』)
飛行機というやつには初めて乗った。巨大な人間さまが行儀よく座っている。目をつぶっているから大半は寝ているのではないか。就寝モードなのか照明は薄暗い。夜に寝て昼に活動する。人間なんて所詮は我々ハエと一緒だ。
『スワンの幸せ』
鷹志
(『みにくいアヒルの子』)
田舎町に住む麗子は、地味で学校でも目立たない存在だった。麗子はみんなの人気者になって男性にもモテたかったが、麗子に話しかけてくれるのは親友の幸子と幼なじみの優一のみ。高校卒業後、麗子は都会の大学へ進学したが、地元に残った幸子とは徐々に疎遠になっていく……。
『円らな瞳』
赤森たすく
(『浦島太郎』)
先ほどから、そう、正確にいえば会社を出た直後から、誰かが私を付けている。ラッシュアワーの雑踏のノイズに紛れていても、その規則的な追尾の気配は私の背中に確実に拾われている。
『ミラー・パニック』
柿ノ木コジロー
(『鏡騒動』)
いつも通り帰宅したマコは、途方にくれるママと、買ったばかりの姿見に出くわし、そしてパパも帰宅したのだが……どんどんと増える家族。一家は三人のはずなのに、なぜ?