『みちびき地蔵』
小柳優斗
(「みちびき地蔵」(『みちのくの民話 日本の民話 別1』収録)』(宮城県気仙沼大島))
私は幼い頃、母と共に「みちびき地蔵」に集うたくさんの亡者を見かけた。しかし父は信じず、村に知らせようとする母を止める。翌日、村を津波が襲った。父の尽力により、村は復興する。月日は流れ、年老いた父は秘密を打ち明けた。村に知らせようとした母を止めたこと、あれは家族を守るためだったと。
『ももも』
柿沼雅美
(『桃太郎』)
大学2年生のももは友人の美和に出生を初めて話した。「おばあちゃんが洗濯してる時に玄関で物音がして開けてみたら私が籠の中で寝かされてたらしいんだよね。しかもその時、桃握らされてたらしいんだよね」と言うと、「神話じゃん」と美和は驚いた。ももは美和と彼氏を連れて親の家を見に向かった。
『闇の向こうまで』
竹野まよ
(『耳なし芳一』(山口県下関市))
草むらでぬばたまを集めているうちに寺に迷い込んだ少女うたは、芳一から、亡霊との約束を裏切って生き長らえた悔恨の告白を聞く。図らずも元居た場所に戻ってしまったうたは、ある月食の晩に芳一が平家を語り尽くす姿を月に見る。芳一は、うたがくれたお守りのぬばたまを蒔いてうたとの約束を果たす。
『くだんの女』
文化振興社
(『南方熊楠全集第3巻』(紀州))
由井の下に届いたのは、自分が自殺させた明菜からの呼び出しの手紙だった。学校に向かうとそこには明菜が待っており、驚いた由井は明菜を殺す。幽霊を退治したと喜ぶ由井だが、隠れてみていた友達に明菜は死んでない、これは仲直りのためのドッキリと聞かされる。由井は殺人犯にされてしまったのだ。
『続・雪女』
小泉八雲
(『雪女』)
とある冬の日、みの吉は父の茂作と山へ出かけて行った。吹雪になり立ち寄った山小屋で雪女が茂作の命を奪ってしまう。みの吉は独りぼっちになってしまうが道に迷いたずねてきた美しい女と夫婦になり子宝に恵まれる。しかし、美しい女の正体は雪女である。約束を破ったみの吉の前から姿を消していった。
『愛の天秤』
尾西美菜子
(『鶴の恩返し』)
罠にかかったところを助けられた鶴は、恩返しのためにツルという名の人間の女の姿になって男と共に生活を始める。ある日、ツルが桜を見たことがないという話になり、雪の中二人で桜の木を見に行くことに。ツルはさっそく、桜色の着物を織ろうとするが……。
『いつまで経っても』
木谷新
(『はなたれ小僧様』(熊本県))
認知症の母は、私に会っても誰かわからない。記憶にあるのは洟をたらしていた子どもの私。ある日、私は川辺で若い女から洟をたらした男の子を預かる。その子はどんな願いも叶えてくれたが、家を追い出すと私の持っていたものはすべて消え失せてしまう。途方に暮れた私は、母の家にたどり着く」
『橋のエピソード』
川瀬えいみ
(『雑炊橋』(長野県))
若い娘が二十年の貧しい生活に耐え、恋人と力を合わせて架けたと伝えられる雑炊橋。健の母は、恋人を信じて待つことができた娘を羨み、妹は、女の花の時季を耐えて待つことに費やさせた男を詰る。健は、橋にまつわる恋物語より、二人が架けた橋の姿にこそ魅入られてしまった――はずだったのだが……。
『夫婦善哉』
西村憲一
(『夫婦善哉』(大阪府))
私の両親は同じ高校の同級生で、大阪法善寺横の店『夫婦善哉』で、母は告白を受ける。結婚して私が生まれ、普通の生活が続いたが、突然父が記憶障害になってしまい、家族を他人扱いするまで症状が進む。それでも、母は昔懐かしい法善寺横のあの店に父を連れ出し、そこで思わぬハプニングが起きる。