『甘橙』
細田拓海
(『檸檬』)
二年間交際した涼子と壮絶な別れを迎えた「私」は、その腹いせに居酒屋で飲み明かし、路上で目覚める。虚しさと二日酔いで苦しみながら街を彷徨う途中、空腹に負けて「丸善」という名の定食屋に入る。そこで注文した日替わり定食には、私の大好物のオレンジが添えられていた。
『屋根裏の動物園』
永佑輔
(『屋根裏の散歩者』)
郷田は下宿先の屋根裏に入り、節穴から住人の生活を覗くのが趣味。しかし今日は遠藤殺害の予行演習だ。そこに遠藤のストーカー明子が現れる。彼女も遠藤を殺害しようとしている。二人が意気投合したのも束の間、屋根裏に閉じ込められる。探偵Aが郷田捜索に乗り出すが、実は二人を閉じ込めたのはAで……
『机の裏の銀河』
柿沼雅美
(『片すみにかがむ死の影』)
出勤をせず、友人と飲みにいくこともなく、旅行は制限され、気兼ねなく共に生活をするのは家族や恋人だけになる。家族も恋人も仕事もこれといって無い人は、死んでしまう、と自らが恐れるよりも前に、世間があっさりとその人物を忘れていく。そしてその道を私も類にもれず進み始めている。
『しゃがむ』
もりまりこ
(『野に臥す者』)
空知一家は、なにか特別なことがあると、反射的にしゃがむ一族だった。そんなしゃがんでしまう彼らの物語です。
『リベンジするほどパッションはない』
もりまりこ
(『ブレーメンの音楽隊』)
八雲は澪を殺したあと栞と暮らすはずだった。しかい、八雲が死んで栞は残った。そして澪の元カレだったふじみが突然訪ねてくる。ふじみはくちぶえで会話するようなふしぎな男だった。
『毒入りリンゴを手に持って』
小山ラム子
(『白雪姫』)
人当りの良さを追求するために、高校入学と共にミスコンへの出場を決意した一夏。一年生、二年生と順調に順位をあげ、三年生で念願の優勝を果たせると思った一夏であったが、その年に完璧な美少女である城崎雪乃が入学してくる。
『月に願う』
吉倉妙
(『赤い靴』)
世間の常識から離れ、それが自分の正論と信じて選んだ末、得体のしれない悪に加担していた私が、最後に月に向かって願ったことは……。
『ある彫像について』
平大典
(『地獄変』)
美術大学出身の夫に連れられて、私は隣町の美術館で開催されている個展に足を運ぶ。展示されている彫像の作者は、夫の大学時代の友人だという。そこで、明らかに夫をモデルにした彫像を目にしてしまい……。
『腐れた女子と腐らない男』
裏木戸夕暮
(『フランケンシュタイン/メアリ・シェリー』)
雪原に犬ぞりを走らせていた探検家は、一人の男を拾った。青年は家に連れ帰っても、全身を帽子やコートで覆い姿を隠している。やがて打ち解けた青年は数奇な身の上話を探検家に語り始める。