『ホタルが見送る銀河鉄道』
洗い熊Q
(『銀河鉄道の夜』)
母方の従兄弟の女の子は変わった子だった。何時も何か、他の人には見えないものを見ているような。その子がある時、私は銀河鉄道を見たと言い出したんだ。
『名も知れない花』
洗い熊Q
(『名もなき草』)
名を持たない男がいた。いや、持つ必要がなかった。残す必要がない、跡形もなく消えるのが男の生来だったからだ。
『眠り姫の末路』
窪あゆみ
(『眠れる森の美女』)
魔女の呪いで眠らされた王子のいるお城へ向かうミシェル。すべては王子と結婚して裕福な暮らしをするためだ。森の中で方向を見失ったミシェルは、道を尋ねるために小さな丸太小屋に立ち寄った。そこで出会った老婆は、彼女に問いかける。お金さえあれば本当に幸せなのかしら、と。
『走れタカス』
吉田猫
(『走れメロス』)
学校で問題を起こして、いつも一人きりで外を見ているアカリの前に突然現れ、交際を申し込んできたのはクラス一目立たない男、高須だった。アカリは冷たい言い方で一旦は彼を追い返そうとしたが、いたずら心から秋のマラソン大会で五位内に入ったら付き合ってもいいと返答してしまうのだった……。
『間抜けなのはだれ?』
小山ラム子
(『裸の王様』)
マミが住む村には高値で買い取られる石が発掘される山がある。その山はとてもかたいため力のある男性が交代で少しずつ掘り進めている。あるとき村に王都からきたという男性がやってくる。その男性は村長に山の開発をもちかけ、村のみんなもその気になっていくのだが、それにマミは不安を感じていた。
『墓じまい』
鹿目勘六
(『野菊の墓』)
佐藤次郎は、故郷で開催された古希祝賀会に出席して同じ陸上部員であった阿部剛と再会した。二人は、女子高の花形選手である山中麗子に憧れを抱き、近付く方策に智慧を絞った青春の日を懐かしむ。麗子は、若くして亡くなったが、半世紀を経て訪れた彼女の墓と村は、荒廃が進んでいた。
『運べ、死体』
永佑輔
(『走れ、メロス』太宰治 、『粗忽長屋』落語、『耳なし芳一の話』小泉八雲)
朝、熊沢は自分の死体を発見。死体と共に結婚式場に向かう道中、熊沢は死体と入れ替わってしまう。婚約相手の芹那はあの世に連れて行かれまいと、全身に経を書こうとする。そこに熊沢が現れる。芹那は、彼が本物ではないと気づくが、それで満足。一方、本物は自身を置き換え可能な人間だと痛感する。
『ともしび少女』
香久山ゆみ
(『マッチ売りの少女』)
マッチ売りの少女が消えた。きっかけは冬の夜とある街角。赤い外衣の少女がマッチを売る。売れない。売るまで帰れない。寒さに耐えかね、売り物のマッチに火をともしてしまう。炎の向こうには温かな夢が見える。だが、現実の彼女はもう家に帰ることもできぬ。炎が消え、彼女は夢を実現することにした。
『俺は卑怯者』
渡辺鷹志
(『桃太郎』)
「俺は鬼を退治した英雄・桃太郎。しかし、俺は英雄でも何でもない。ただの卑怯者だ」桃太郎が誰にも知られていない鬼退治の真実を語る。