「ゴールデンウィークにもかかわらず、今日の関東は真夏日で……」
今朝もまた、熊沢は点けっぱなしのテレビから流れる天気予報で目を覚ます。右足だけをベッドから下ろすと、柔らかい感触が。何だ、とフロアを見やる。
男がうつ伏せている。
「アンタ、人んちで何してんだ。起きろ」
男を揺すったり叩いたりするが、どうも起きそうにない。
「よいしょ」
あお向けにした男の顔は、熊沢と瓜二つ。
違う、瓜二つではない。熊沢そのものだ、混じりっけなしの熊沢だ。
熊沢は、熊沢の口と胸に手を当てる。
熊沢の呼吸と鼓動はすっかり止まっている。ようするに、死体。
「死ぬな。芹那にはお前しかいないんだ、起きろ」
テレビCMの声が虚しい。
熊沢はベッドから出て固定電話の受話器を取る。相手は交際歴十年の婚約者、芹那。しかも、挙式は今日の正午。
「俺、死んじゃったわ」
ありのままを伝えた。
受話器の向こうで、芹那が頓狂な声を上げてぶったまげている。
熊沢は受話器を耳と肩に挟みながら牛乳を注ぎ、注いだだけですっかり平らげた気になって、飲み忘れる。
「俺と床に転がってるコイツはニコイチだから、二人で向かう。時間に間に合わなかったら俺との結婚、考え直してくれて構わない。じゃあ、いつものあれを言って。いいから言って。ほら、言って」
いつものように歯の浮くようなセリフを無理強いし、言ってもらってニヤニヤし、受話器を戻さず、出て行く。
マンションを出ようとしたところで熊沢を忘れたことに気づき、部屋に戻り、ヨッコラセと背負い、鍵を閉めずに出発した。
新緑まぶしい朝である。
熊沢は額の汗を拭ったことによって、ようやく季節外れの暑さに気づく。
日差しを避けるように飛び込んだのは、宅配便の直営店。
「コレは生モノだからクールで送ってください」