『シェフのいないレストラン』
島田悠子
(『透明人間』)
狭い路地を入ったところにあるこの小さなレストランのコックは透明人間。彼が直接触れたものは透明になってしまう。だから、料理も全て透明。客はそこにたべものがあると信じて食べてみる。と、なんと美味なフルコース。それは個人的な悩みも吹き飛んでしまうような不思議な体験で……。
『マーメイドの食器棚』
長谷川美緒
(『人魚姫』)
人間になる前、人魚姫は、自分の尻尾からうろこを十枚ひっそりと剥ぎとって、布に包んだ。お嫁に行った先の家で人間としての生活が続くうち、食器棚の奥にしまったうろこは乾き、来客用の皿として使われそうになるが、一枚が割れてしまう。人魚姫は割れた皿を、森の入り口に住む老婆の家へ持って行く。
『水鏡』
藤田竹彦
(『死神の名付け親』)
競馬好きの取違八郎、競馬に生活費までつぎ込んでしまい、愛想を尽かした女房は子供を連れて実家へ帰ってしまう。ひとり残された八郎の前に現れたのが死神。「明日の夕方にお前さんの寿命が尽きるから迎えに来た」と言う死神に八郎は・・・
『彼女が僕を縛ったら』
むう
(『浦島太郎』)
ほどほどに生きてきた大学生のタスケは、ある日、近所で亀甲縛りをされた亀に出会う。亀の飼い主はタスケと同い年で小さな平屋に一人で住む女の子、オトだった。オトには奇妙な癖があった。身の周りにあるものを何でも縛ってしまうのだ。 タスケはオトに興味を持ち、徐々に惹かれていったが…。
『流しのしたの』
伊東亜弥子
(『かちかち山』)
妻は最近、酒をよく飲む。飲むのはかまわないが体を壊しては困ると男は心配し、酒以外の気晴らしを、といつもはあまり行かないようなところに出掛けたりしてみた。けれども外出先でも結局妻は酒を飲んでしまう。しかし酒を飲んである失敗をした妻はいよいよ流しの下にずらりとある酒を捨てるのだった。
『睡蓮の雫』
齊藤P
(『浦島太郎』)
将来犯罪を犯すと予測された人物を確保、人格の矯正を行い地上へ送り返す。それが私たち竜宮城スタッフの仕事だ。そんなある日、竜宮城へ凶悪な犯罪を複数行うと予測された「浦島」という男がやってくるが、どうも彼は犯罪を犯すような人間には見えず…
『二十二時、八王子駅にて神を待つ』
山本マサ
(『マッチ売りの少女』)
母を亡くしてから、父の暴力や態度の変化により、家に居づらくなった鈴は、毎晩ツイッターで、家に泊めてくれる人を探していた。それはクリスマスの夜でも変わらない。高校生の鈴が補導される一時間前の二十二時、彼女はツイッターに投稿する。「誰でもいいので泊めてください。#家出少女#神待ち」
『おちこちあいめ』
曽水あゑ
(『古事記』)
光吉の昔馴染みのナギオは心中騒ぎを起こすが、ナギオだけ生き残ってしまい、別の女性と結婚する。ある日道に迷った光吉は、偶然『向こう側』に住むナミコと言う女に出くわす。女はナギオのことで光吉に頼みがあると言う。数年後、ナギオの妻モモコも光吉にナギオと女に関わるある依頼をするのだった。
『遅すぎた女』
yui.chi
(『鶴の恩返し』)
部屋から出ないことをコンセプトに活動するユーチューバー、『ニートマン』。ある雨の日、彼の部屋に一人の老婆が訪ねてくる。何かを返しに来たらしい老婆と、部屋に上がりこまれて迷惑がる男。しかし幼い頃の思い出に男が浸っていると…。