『Mirror』
小林央
(『桃太郎』)
彼らに彼らの正義があるように、私たちにも私たちなりの正義がある。……そして彼らに日常があるように、私たちにも日常がある。どうして私たち家族がこんな目にあわなくてはいけないのか。それでも私はただ彼を信じて、この場所を、愛しい我が子を守ることしか出来ない――
『登る月』
和織
(『Kの昇天』梶井基次郎)
部屋の窓にはカーテンが引かれている。外の光がまだ、太陽による「しなり」を帯びたものだからだ。君はもう、平な光しか望まない。平らな光によって生み出されるものしか望まない。
『蜘蛛の祈り』
川波静香
(『蜘蛛の糸』)
極楽で暮らしていた蜘蛛の目の前で、お釈迦様が蜘蛛の糸を使って一人の人間を救い出そうとした。しかし、糸は途中で切れてしまい、お釈迦様はそのままその人間を見捨ててしまう。蜘蛛はお釈迦様の御心が理解できなくなり、嫌気が差して、地上に降りてきた。地上での生活は空腹との闘いだった。
『解放』
椎名
(『故郷』)
友達が国語の宿題を忘れたペナルティで、漢字の書き取りを二万字書くことになった。俺は、そいつが書き終わるまで待っていてあげた。「あー、もやだ。なんであの国語教師はこんなに意味のない課題を出すんだ。もう嫌になった、死にたい!」
『盗人と天女』
多田宏
(『竹取物語』『羽衣伝説』)
奈良の生駒の山中で一人暮らす盗人の助左は、自分の所有する温泉池に湯浴みに来た天女の一人の羽衣を奪い、一年間だけの約束で妻になるのを承諾させる。しかし、暮らすうちに人間の男と天女との根本的な違いに気付き、彼女に別れを告げてしまう。
『デイドリームアフター』
柘榴木昴
(『ワーズワース詩集『水仙』『ルーシー・ポエム』)
静かな湖畔の寄る辺。ある偉大な詩人が、密かに穏やかにその生を終わらせようとしていたが、傍に使えるククルスはなんとか元気づけたいと献身的に付き添っていた。そんなある日、差出人のない絵葉書が届く。それは偉大な詩人が心から求めたであろう人物からだった。
『魔鏡譚』
蟻目柊司
(『ドリアン・グレイの肖像』オスカー・ワイルド)
ある晩、バーで話しかけてきた見知らぬ青年は、自らを不老不死だと言った。彼は語り始める。かつて帝国陸軍に存在した特殊研究部隊の実態、魔女の疑いのもとに囚われていたロシア人少女の想い、魔鏡が映し出す人影のおぞましき秘密。そして、死ねなくなった青年が時の果てに辿り着いた場所とは……