『幸福の青いカラス』
エルディ(『青い鳥』)
もうすぐ小学校を卒業する「わたし」にはひとつ悩みがある。冬休みの宿題の書き初めで、「鳥」と書くところ、一本線が抜けて「烏」になってしまったのだ。教室に掲示された「烏」をみんなにからかわれ落ち込む「わたし」は、ミスをこっそり直そうとするが、そこに大好きな吉田くんが現れて……
『主人公』
あおきゆか
(横光利一『機械』)
呑気な主婦の書く小説の中でいつも脇役に甘んじてきた私は、はじめて主人公になった。だが、これまでずっと主人公をやってきた軽部との隣人トラブルに加え、遅れて現れた屋敷の存在感に悩まされるようになる。三人は小説の主要人物でありながら水面下で憎しみ合い、やがて人工物のような森に迷い込む。
『特異体質』
小野塚一成
(『ピノキオ』)
ある特異体質を持ちながらも、セレクトショップの店員として仕事をこなす涼子。プライベートでは、本音を伝えることができずいつも本命の男を逃してしいる。このままでは生涯独り身かもしれないと危機を感じた頃、合コンで良い感じの男性を見つけた。早速、彼女が彼にメールを送ってみると……
『蜜柑の雨』
柿沼雅美
(太宰治『蜜柑』)
ある冬の日、私は私鉄に乗っていた。目に入る出来事や仕事、自分に嫌気がさしていた私の前で、慌ただしく地味な女子高生が乗り込んで来た事で不快が増した。彼女の置いたスマホがTwitterを表示し、そのアカウントのツイートを見てみると、私と同じ場所へ向かっていることが分かった……
『歌えメロス』
ノリ・ケンゾウ
(『走れメロス』)
メロスは激怒した。大手メーカー勤務の超一流営業マンのメロスは、行きつけの牛丼屋で邪智暴虐の限りを尽くすバイトリーダーを除くべく、牛丼屋への転職を決意する。猶予は三日間。メロスよ、三日後の日の出までに完璧に仕事の引き継ぎや送別会を済まし、バイトリーダーの悪の心を打ち砕くため、歌え!
『尾を持つ娘』
化野生姜
(『赤い蝋燭と人魚』)
土間の戸を開けたとき、つんとした磯の臭いが鼻についた。男は娘が来るのを待っていた。魚の尾を持つ娘がいる話を耳にし、檻を持ってろうそく屋を尋ねてきたのだ。しかし、障子戸から聞こえる老夫婦のささやきは男の抱く考えとは裏腹に、恐ろしい事実を浮き彫りにしていくのであった……
『こんにちは、世界。』
二月魚帆
(『貉(むじな)』)
半年前、通勤の行き帰りに寄っていたコンビニで働く女の子に告白し、フラれた僕。落ち込む僕は友人の本村の強引な誘いで街コンに渋々やってきた。しかし女の子の顔がみんな同じように見えてしまい、誰に話しかける気力もない。そうしてぽつんとカウンターで一人座る僕に、一人の女が話しかけてきた。
『空の銛』
清水その字
(ハーマン・メルヴィル『白鯨』)
大学の図書室で読書する僕の前に現れたアキエさん。「私、これに乗っているの」……戦闘機の写真を指差して、彼女は言った。いつも『白鯨』を読みながら居眠りをしては、夢の中で大空を飛んでいるという。彼女に興味を持ち始めたある日、「僕」は気がつくと操縦席に座っていて……
『めぐりめぐって』
長月竜胆
(『まったくほんとう!』)
「あら、羽が抜けた分、痩せて綺麗になれたわ」ニワトリのそんな些細な冗談から始まった噂話。思い込みや勘違いによって少しずつ変化する話の内容は、いつしかニワトリを置き去りにして社会現象にまで発展していく。