「相方も今までで一番似合ってるって言ってくれて」
「こみちさん、でしたっけ」
彼女は深く頷いた。
「同じ大学のお笑いサークルで出会ったんですけど。すごくいい子で、運命の相方だって思ってます」
「なんかいいですね、そういうのって。今度、ライブあったら私も行ってみようかな」
「ほんとですかぜひ! その時はチケット持って来ますよ!」
伸びた毛先を整えている間、思い出したように彼女が口を開いた。
「そうだ、前もらった青薔薇もちゃんと活けたんですよ。花瓶なんていいもの持ってないから百均の器だけど。そんなんでも部屋に花があると雰囲気って変わるんだなって。なんていうか、部屋の空気が綻ぶっていうか」
「でしょう? じゃあ、今日も一本おまけで付けちゃいますよ」
「やったラッキー! 言ってみるもんだわ」
鏡越しに目を合わせ、そうして彼女と笑い合った。
見送り際、私はカウンターの上に飾っていた季節の花を紙にくるんで彼女に差し出した。
「青くて小さくて、でもなんか道端に咲いてそうな素朴な花」
「ブルースターという花です。可愛いでしょう?」
手元の花に顔を綻ばせた彼女を送り出しながらそっと告げる。
「花言葉は、信じあう心です」
次に彼女が店にやって来たのは、年末も押し迫った年の瀬の、凍えるように寒い冬の日だった。
「なかなか来れなくてすいません」
「お忙しいですか」
「ええ、この時期副業のバイトの方でてんてこまい!」
おちゃらけた風にそう言ってから、彼女は微かに目を伏せた。
「あはは、芸人の仕事なかなかこなくって。マメに美容院の敷居も跨げないほど貧乏に喘いでるもんで」
「そう、だったんですか」
「でもどうしてもここで切って欲しかったんですよね。このニュアンスお姉さんにしか出せないし、いい加減切ってメンテしないと視界完全に塞いで不審者になっちゃう。──何より、お姉さんが考えてくれた髪だから。お姉さん、私の専属美容師なんで」
いつも通りに整える間、彼女は零すようにぽつりと言った。
「どんどん若手も出てきて、追い抜かれてて。まあこの世界の常だし、今に始まったことじゃないけど。……相方のこみちがいれば最強なんで、いつかまた返り咲きますよ」
そう笑う彼女はいつでも元気そうに振る舞っている。──でもちょっとだけ、無理をしているようにも思えた。
帰り際、彼女のコートの胸ポケットを飾るように、私は大振りに咲く赤い花を挿した。
「冬の花のポインセチアです。……花言葉は、幸運を祈る」
自分にできることなんてこれくらいしかないけれど、迷いながらも、顔を上げた彼女に私は言った。
「トリートメントでもサービスするので、良かったら、またいつでも来てくださいね」
気付けば日差しもぬるんできた春先のある日。久しぶりに見せた姿に安堵して、私は彼女を鏡の前に案内した。
「いつものやつで大丈夫ですかね?」
「はい。──でも残念だなあ、この髪型にしてもらえるのも、これが最後だなんて」
手を止めた私を彼女は振り返った。