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               国際短編映画祭につながる「ショートフィルムの原案」公募・創作プロジェクト 奇想天外短編映画 BOOK SHORTS

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『ガーベラ』ウダ・タマキ

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 結衣さんからLINEが届いたのは新緑が眩しい季節を迎える頃だった。私は嬉しくて仕方なくて、笑顔のスタンプをたくさん送って結衣さんを迎えた。空気が読めなさすぎかなって思ったけれど、結衣さんからも同じように笑顔のスタンプが返ってきたので、ほっと胸を撫で下ろした。辛い治療が終わり、体調は随分と良くなったそうだ。
 以前のようなLINEのやりとり。「仕事、頑張ってんの?」とか「彼氏できたの?」とか。当たり前のことが、とても心地良かった。だけど、どうしても言えなかった。「また来てくださいね」とは。

 ―そうそう、医療用ウィッグのカットできる?

 他愛もないやりとりを終え、結衣さんから届いたメッセージがそれだった。結衣さんらしい。

 したことありませんけど……多分、私なら大丈夫です 笑

 ―じゃっ、お願いしようかな! 高かったから失敗するなよ 笑

 閉店後、スタッフが帰ってから結衣さんを迎えた。久しぶりに会う結衣さんは、少し痩せた感じはあったけれど元気そうだった。
「長い髪、似合ってますね!」
 私はあえて少し意地悪な調子で言った。
「何言ってんのよ、早くカットしたくてウズウズしてるのよ」
「ショートのウィッグ、無かったんですか?」
「あったんだけどね……奈々にカットしてもらいたくて」
 嬉しかった。思わず涙がでそうになるのを堪えた。が、すかさず結衣さんが返した。「感動して泣くんじゃないよ」って。お見通しだった。
「いつも通りでいいですか?」
「ええ、お願い」
 そう言って、椅子に座る結衣さんは背筋を伸ばした。
「では、切ります」
 まるで、初めてお客さんの髪をカットした時のような緊張感が私を襲う。もちろん、今でも誰の髪をカットする時でも緊張はする。失敗の許されない大切な髪だから。だけど、この緊張はいつもより遥かに大きなものだった。手が動かなかった。
「ガーベラ、飾ってくれたんだね?」
 私はこの日のため、鏡の横に花瓶に挿したガーベラを飾っていた。
「あっ、はい、綺麗でしょ?」
「うん。懐かしいね、あの頃」
「あれから、私はガーベラの花が大好きなんです」
 私たち二人は、花瓶のガーベラを見つめていた。

 県大会の一回戦。私は二年生ながら団体戦のメンバーに選ばれた。結衣さんのように上手く、強くなりたいと思って努力した結果だった。 
 臨んだ団体戦の初戦。この日に向けて朝早くから夜遅くまで練習をした。眠る時でさえも頭の中でイメージトレーニングをした。しかし、周囲の期待も私の意気込みも虚しく、ストレートで負けてしまった。体ががちがちになって思うようなプレーができなかった。呆気なかった。
 校舎の影に身を潜め、タオルから滴り落ちるんじゃないかというくらい涙を流す私の肩に、そっと誰かの手が触れた。振り返ると、そこには結衣さんの姿があった。青春映画の一場面のようだった。

「奈々、泣かないの! よく頑張ったって笑おう!」

「はい……だけど……ごめんなさい、せっかくメンバーに選んでもらったのに」

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