結衣さんは私の隣に腰を下ろした。
「次、頑張ったらいいんだよ。奈々はまだ二年なんだしさ」
そっと、心に置かれるような優しい言葉だった。私はその言葉に「うぇぇーん」って、まるで赤ちゃんのように余計に泣いてしまったっけ。
「ねぇ、奈々。みんなで胸に付けたガーベラの花言葉って『希望』なんだよ」
結衣さんは私の頭をぽんぽんと優しく叩いた。
「また、希望を胸に前を向かなきゃね」
ガーベラを見ながら結衣さんが呟いた。そうだ、立ち止まっている場合なんかじゃない。
「よし! さぁ、気合い入れて切りますよ!」
私の気持ちはすっかり軽やかになった。
鏡に映る結衣さんは、そっと目を閉じた。僅かに上がった口角は笑みを浮かべているようで、とても安心しているように思えた。
いつものように、そう、何度も何度もカットしてきたように、私は一つ一つに気持ちを込めて結衣さんの髪にハサミを入れた。
そして―
そこには、確かに結衣さんがいた。
「お疲れ様でした」
視線を鏡に向けたまま、顔を左右に向ける結衣さん。私は後ろに立って鏡を構えた。結衣さんの口が動く。ドキッとする私。
「ありがとう、さすが奈々ね」
―良かった
「こちらこそ、ありがとうございました」
私は深く頭を下げた。
「また、自分の髪が伸びたらお願いします」
「はい、喜んで!」
「さぁ、これから仕事にも復活してまたバリバリ働かないとね!」
「ええ、頑張りましょう! お互い前を向いて、希望を持って!」
結衣さんは心から笑った。
この仕事に出会えた私は幸せだ。心からそう思った。