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『オアシス』森井いち子

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 子ども達を楽しませたくていつもと違う児童館に行こうと思ったのに……。私は小さくため息をついてひろととゆきとに話しかけた。
「ごめんね。疲れちゃったね。今日はもうおうち帰ってひとやすみしようか」
 楽しそうな遊び場所を探して、行き方も調べて、持ち物だって全部準備した。だけど誰も楽しめない結果になってしまっている。私って本当にダメなママだ……。
 私は泣きたい気持ちになりながら、帰り道を確認しようとスマホの地図アプリを開こうとして愕然とした。画面に充電切れのマークが表示されている。そういえば朝起きたときスマホの充電ケーブルが外れていた……。
 私は地図の確認をあきらめると歩き出した。とりあえず自宅の方角に向かって歩いていれば、そのうち知っている道にたどり着くだろう。
 だけど来たときと同じように目の前に階段があったり、まっすぐ進みたいのに道が別の方向に続いていたり……。まったく思うように進むことができない。
 暑い、のどが渇いた。小さくてもいいからどこかにベンチないかしら。少しだけでも荷物を開けられるところがあればひろととゆきとに飲み物をあげられるんだけど……。私はあたりを見渡した。戸建て住宅が並ぶ街並みはひたすら静かだけど、休めそうな場所はなかった。

 ふと、少し先にある建物に目が留まった。小さいけれど大きな窓のあるおしゃれな建物で、ガラス張りの扉のわきには折りたたみの小さな黒板がある。カフェだ!涼しいところで子どもたちに美味しいジュースでも飲ませてあげられたら嬉しい。子連れでも入れるかしら。私は少し駆け足で近づくと扉のわきの黒板を見た。
『カット、シャンプー、ブロー、トリートメント、カラー、パーマ――』
 私は大きな窓から中の様子を伺った。大きな鏡と向かい合わせになっているゆったりとしたイスが二組、奥の方にリクライニングできそうなイスがある。多分その後ろにはシャワーのついた洗髪台があるのだろう。私は扉に書かれた文字をだめ押しのように確認した。
『美容室オアシス』
 最近の美容室はケーキ屋さんやカフェみたいにおしゃれだな、こういうところでカットやパーマしてもらったら幸せな気持ちになりそう……と思いながらも、がっくりと肩が落ちるのがわかった。私はとぼとぼと歩き出した。

と、後ろで軽やかな音がして美容室の扉が開いた。
「ありがとうございました。またお待ちしております」
 年かさの上品な女性が扉を押さえながら、店内に向かって声を掛けている。美容室からおしゃれなマダムがさっそうと出てきた。落ち着いたダークブラウンのショートヘアはつやつやとしていて、毛先の大きめのカールが知的な雰囲気を高めている。リズミカルなヒールの足音とスッと伸びた背筋かかっこいい。ステキだなぁ……。私はマダムの後姿をうっとりと見送ってしまった。
「こんにちは」
 声を掛けられて私ははっとした。振り返ると美容室から出てきた女性がにこやかにこちらを見ている。
「こ、こんにちは」
 私は上ずった声で返事を返した。お店に駆け寄ったり看板を眺めたり店内を覗いたりしていた一連の行動を見られていたのかもしれない。

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