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『オアシス』森井いち子

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 なんでこんなに思いどおりに動けないんだろう……。
 抱っこひもに赤ちゃんを抱え、幼児を乗せたベビーカーを押す私は、狭くて長くて急な階段を前にそう思った。

「ママ、おはよ」
 目を覚ましたひろとが、少し舌足らずに朝の挨拶をした。今日もよく眠れたようで朝からごきげんだ。
「おはよう……」
 私は朝早くに起きてしまったゆきとを抱っこしながら返事をした。私の方は寝不足だけど、それは後回しだ。
「今日はちょっと遠くに遊びに行くからお着替えしたらすぐにご飯食べようね」
 今日はとなりの駅にある児童館に行こうと思っている。少し離れた場所にあるのでこれまで行ったことはないけれど、たまにはいつもと違う場所で遊ぶのも楽しいはずだ。
 電車を使ったほうが楽に行けるけれど、まだ通勤客の多い時間帯に抱っこひもとベビーカーで電車に乗り込むのは気が引ける。児童館までの道のりを地図アプリで調べてみたら徒歩二十分強なので、これならいける!と私は歩いていくことに決めた。
 ひろとは二歳。だいぶしっかりしてきたとは思うけれど、着替えや食事にはまだまだ私のサポートが必要だ。
 七ヵ月のゆきとは睡眠のリズムがつかめてきたけれど、ときどき夜中まで眠らなかったり朝早い時間に起きてしまったりする。
 眠さにぐずるゆきとをなだめながらひろとの朝の支度をすませると、私は子どもたちの水筒とおやつ、おむつや着替えでパンパンのバッグを肩から下げ、ひろとをベビーカーに乗せ、ゆきと抱っこひもで抱え、家を出発した。

 今日は日差しもあって初夏並みの陽気だった。地図アプリではわからなかったけれど、ずっと登り坂が続いている。ゆきとを抱っこひもで身体に密着させた状態で、ひろとを乗せたベビーカーを押しながら歩くのは思っていたよりも大変で、私はだんだん汗ばんできていた。
 あと少しで児童館に到着するはず。と、私は足を止めた。目の前に狭くて長くて急な階段が立ちはだかっている。地図では普通の道に見えたけど階段だったのか……。私は頭を抱えた。
 ベビーカーを押したまま階段を登ることは当然できない。ベビーカーからひろとを降ろし一緒に登るのが現実的だけれど、抱っこひもでゆきとを抱えて、片方の手はひろと、もう片方の手は折りたたんだベビーカー、そして大きなバッグを肩から下げてこの狭い階段を登るのはきつい。もっと怖いのはひろとが登りきれなくなったときだ。子ども二人と大きな荷物二つを抱えて、この急な階段を下りるのは危険すぎる。
 私はスマホに表示されている地図の表示範囲を広げて周辺の様子を見た。別の道からも児童館に行けそうだ。少し歩く距離は長くなるけれど、坂の勾配は少なくなるはず。
 私はスマホをポケットに入れると階段に背を向けて別の道に向かった。

 それから――私は完全に道に迷っていた。さっきと同じように地図では道になっているところが実際には階段だったり、地図上は児童館のすぐ近くにいるのに実際は高低差が大きく児童館は現在地のはるか下方に位置していたり……。児童館の周りをウロウロするばかりで全然中に入れない。
 抱っこひもの中のゆきとは暑さと眠気で泣き出してしまったし、ひろとも「あついね、つかれたね」と少しネガティブになりはじめている。

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