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『髪色』秋吉春伽

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 柏さんにバッグとコートを預けて、案内された椅子に座った。大きな鏡の脇から見える窓の外の植物は日の光を受けて、気持ち良さそうにときおり風に吹かれている。群れになって揺れているラベンダーの匂いが店の中にも香ってきそうだった。
「今日は、イメージしてる色あるの?」
 と、柏さんは私の髪を触って、その質やらダメージを確かめているようだった。
「いや、えーと、それが、うーんとですね……」
 口から次々出てくる接続詞に、柏さんは、すぐにどんな色がいいかを伝えるいつもの私の反応と違うことに
「珍しい、どうした?カラーチャート見ながら決める?」
 と、多少驚いているようだった。
 私は心の内を話すことにした。そうしないといつまでも事が進まない。柏さんにはこの後も予約が入ってるだろうから、無駄な時間を取ってはいけないとも思っていた。
 私の話を聞いた柏さんは、
「就活か。もうそんな時期なんだね。確かに、よくある会社に就職なら黒く染めるもんだよね」
 うんうんと、納得するように頷く柏さん。
「でも、黒く染めたら就活と向き合えるのかと言われると、それも違っている気がして」
 鏡越しに柏さんにそう言うと、柏さんは首をひねった。
「私はこの職業だったから、髪色は自由に好きな色で就職したけどさ、今は昔よりもっと自由にはなってきてるんじゃない?出版社とか私服でいいって聞くし、髪色だって、地毛の黒じゃなきゃダメっていう会社もあるだろうけど、そうじゃない会社もあるでしょ?中には」
「それは、ありますけど」
「美樹ちゃんがどこの業種というか、会社を受けたいかによるんじゃないの?」
 問題は髪色ではなく、志望する業種がはっきりと定まっていないことだと、私は遠回しにそう言われた気がした。
「そう、です。そうなんです」
 私は白状した。
「それがはっきりしてないんです。だからきっと、踏ん切りがつかないのかも」
 柏さんは、ふふっと笑って何気なく、しかし確かな口調で
「就活の軸みたいなものかな」
 とそう言った。
 就活の軸。私は人とたくさん触れあう仕事がしたい。大勢の人と関わるのが好きな私は、でも人と違うことをするのが怖い。
「そうですね」
 と言ってから、次に話すことが浮かばなくて、私は風に揺れる窓向こうの緑に目をやった。
「ハーブって、種から植えるんですか?」
「種からも育てられるけど、ここのは苗。種から植えたのは朝顔だけかな」
 そういえば、いつもは西洋風のおしゃれなこの美容室も、夏になると朝顔のカーテンが現れて、日本らしく見える外観の角度がある。
「この場所からだと、夏は朝顔が見えますよね」
「そうそう。緑のカーテンっていう役目もあるんだけど、朝顔って朝早く咲くでしょ?」
「はい」と、小学生の頃に育てた朝顔の記憶をたどって、そう答えた。
「美容室なのに開店前の早朝に庭を手入れしているスタッフが、そのきれいに咲いた萎む前の朝顔を見られるの。手入れをするスタッフの特権ってやつ」
 私は思わずほほえんだ。
「それ、すごくいいです」

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