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『髪色』秋吉春伽

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 よく行く居酒屋のお品書きに、ふきのとうの天ぷらが追加されていた。
「あと、このふきのとうの天ぷらください」
 馴染みの店員はよく響く声で注文を通した。暖冬のおかげだろう、例年より一ヶ月も早くふきのとうを食べられることに、私の心は躍っていた。
「ふきのとう食べる美樹見ると、またこの季節がやって来たなーって思うよね」
 私の横に座る佳奈(かな)がそう言って、お通しを一口食べた。スーツを脱いだワイシャツ姿の佳奈の前には、もうすでに顔を赤らめた美咲(みさき)がいる。
「三年もあと二ヶ月で終わるからね」
 二人は大学主催の就職説明会に参加した帰り、この居酒屋に来た。もともとお酒が弱い美咲は初めての就職説明会を終えて緊張が解けたのか、ビールが運ばれてくるやいなや珍しくごくごくと喉を鳴らした。
 いつものメンバーといつもの居酒屋で飲んでいた私はこの中で唯一私服だった。
「もう三年も経つのかー。早いね、もう就活だ」
「実感湧かないねー」
 と言いつつも、就活に向けて動き出した二人はもうすっかり就活生に見える。リクルートスーツに合わせた靴と鞄、化粧。そして黒い髪。もともと染めてなかった美咲の髪は地毛のままだが、佳奈は茶髪を黒く染めている。「美容院でわざわざ染めなくても、市販の黒染めの方が安いし」と、何かとお金がかかる就活に向けてすでに節約モードだ。
 私だけ、まだ就活生になれてない。焦りを洗い流すようにお猪口を口に運ぶと、日本酒のほどよい熱さが喉を流れた。
「お待たせしましたー」
 料理が運ばれてきた。私の真ん前に待望のふきのとうの天ぷらが置かれた。
「あ、ねえ、りょう先輩にさ、この前会ったよ」
 学科が同じ美咲は、サークルを引退し卒論で忙しい先輩とも未だに顔を会わせる機会があるらしい。何かにつけて先輩の話をする彼女に私は素朴な疑問を問うた。
「ねえ美咲、まだりょう先輩のこと好きなの?」
「違う違う」
 と美咲は軽く笑った。
「内定者の先輩にいろいろ話を聞きたいなーと思ってさ」
 いかにも真面目な美咲らしい理由だ。
「会ってなんか話したの?」
 そう言いながら、佳奈はカレイの煮付けをほぐしている。私はふきのとうを口にした。噛んだ瞬間にサクッと音を立てた天ぷら。
「うん。ESの添削とかお願いした」
 久しぶりの味は記憶していたものと違い、苦みが強かった。いつもはその苦みが美味しいと思えるはずなのに、今日はそうでもない。
「さすが美咲だなー」
 と言った佳奈の口調からは余裕が見えた。私は苦みを洗い流すように、日本酒を口にした。
 サークルに来た先輩が髪を黒く染めたとき、それが就活のスタートなんだと私は思った。その後大学でたまに見かける先輩は、いつもスーツ姿だった。それから半年、久しぶりに見かけた先輩の髪色は茶色に戻っていた。就活が終わり、最後の遊びが始まったのだと、その明るい茶髪に感じた。
 「りょう先輩はさ、髪染めるとき自分でやったって?」
 「え?そうじゃない?大体みんな市販のを使うと思ってたけど」
 「やっぱりそうだよね」
 と確かめるように言った私に佳奈は
 「そうだ、美樹も早く染めなよ!その髪」
 とそれがいかにも当たり前で、簡単なことのように言ってきた。

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