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『さあ、魔法を教えてあげる』結咲こはる

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 「藤吉さんの髪質は混合していて、顔周りが波状毛。後ろが長波状家毛って感じですかね」
 そうやって、顔周りと後ろの髪を分けて鏡越しに見せてくれた。あたしは改めて自分のクセと向き合った。クセ毛に種類があったなんて考えもしなかった。
「それから藤吉さん。この感じだと丸顔というよりは卵型ですね」
「え!あたし丸顔じゃないの?」
「若干横の方が短いと思うよ」
 そう言って、瀬尾さんはなにやらこの場に似使わない工具らしきものを取り出した。その道具の使い道が読めないあたしはドキドキする。
「これ、ノギスっていうんです。見ててね」
 瀬尾さんはそのノギスとやらであたしの顔の輪郭の縦と横を測った。都度見せてくれた数値。それは縦より横の方が1センチ短かった。
 「あたしずっと丸顔だと思ってた……」
 「意外とこうして自分の顔を測るひとなんていないからね」
 瀬尾さんは笑って言った。その手にしたノギスを片付け、大きな節のある手であたしの頭頂部に触れる。
 「それから、ハチがちょっとあるね。このあたりの毛量を調節したら、ボリュームダウンも可能だよ」
 「そうなんですか?」
 ハチが出てるのは知っていたけど、毛量を調節することでボリュームが抑えられるというのは初耳だ。
 「うん。ここが飛び出している分、やっぱり毛は広がりやすいんだよ。クセがあるから余計に」
 瀬尾さんがあたしのハチ辺りの毛を束にして持ち上げ、その下の髪を指さしながら言う。
「でも、この部分の毛を減らしてあげて、あとは乾かし方を変えて、クセを抑えれば、ストレートにはなるよ。クセを生かしたゆるふわヘアも問題ないかな」
 そこまで話を聞いて、あたしは困ってしまう。その乾かし方がまず分からない。それに教えてもらったところで、美容師がしてくれたように再現できるのだろうか。それなら縮毛矯正をかけて貰ってしまった方がいいような気さえした。
「あたしに、その乾かし方とかケアが……できる?」
 よほど不安そうな面持ちをしていたのだろう。瀬尾さんは大丈夫大丈夫、とにこやかに微笑んだ。さっきから思ってたけど、瀬尾さん、笑うと目がなくなる。なんかかわいい。
「美容師にしか再現できない髪型にされたら、誰だってできないよ。自分で再現できる髪型にして初めて、美容師の腕が見せられると僕は思ってるから」
 だから、任せてみてよ。そう、瀬尾さんが柔らかく笑う。あたしはその笑顔(なくなる目)に絆されて、お任せします、と告げていた。

 シャンプーをしてもらい、トリートメントを施してもらう。たったそれだけなのに、なぜか自分がどこぞの国のお姫様になったような気がした。あたしの髪がこんなに大切に扱われるなんて。自分でもここまでしてあげたことなど1度もない。
 瀬尾さんは、このときシャワーの温度やシャンプーの力加減以外、特に何も話しかけては来なかった。いや、仮に話しかけれられてもまともな返事なんてできそうにないんだけれど。

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