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『さあ、魔法を教えてあげる』結咲こはる

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「あー、ごめん。俺、さらさらストレートの髪の子が好きなんだよね」
 校舎裏の連絡通路。まだ少しの肌寒さの感じる中で、あたしは3年間片想いしていた大場くんに振られた。
 桃の花びらが吹きぬけた拍子に視界を奪ううねった毛。傷心のあたしの傷を抉るようなとどめとなったその髪こそが、今もこれからも付き合わなければならないあたしの髪なのだと思うと、泣けてきた。

 「え、大場くんひどい!」
 学校からの帰り道。親友の桃ちゃんに失恋したことを告げれば、あたしの分まで憤ってくれた。
 「まあでも、仕方ないよね」
 心のどこかでこうなることを予想していたあたしは、ため息混じりに笑った。
 「そんなことないよ!大事なのは中身でしょ!」
 桃ちゃんは力説する。そんな桃ちゃんを、あたしはそっと見つめた。そういう桃ちゃんは、サラサラストレートの髪。それこそ、大場くんの好みの髪をしている。入学したての頃は、あたしと同じ剛毛の癖毛だったのに。
 ママにお願いして、縮毛矯正かけたの!――とイメチェンして登校してきたあの日を、あたしは忘れない。180度見る目が変わった男子たちのあの視線も。
 その日、学校から帰ってすぐにあたしもお母さんに頼んでみたけど「そんな高額払えません」と一蹴された。以来、あたしは桃ちゃんのことは好きだけどほんのちょっと、憎い。大事なものが中身だって言うなら、桃ちゃんはなんで縮毛矯正かけたのよ。そう言ってやりたかったけど、なんとか飲み下した。

 桃ちゃんと別れて帰宅するなり、自室に飛び込んだ。制服のままベッドに倒れ込み、スマホを起動する。サロンのクーポンがあり、そのまま予約できるサイトで近隣の美容室を検索する。そしてすぐその手を止め、机の引き出しに隠すよう仕舞い込んでいた貯金箱を取り出してひっくり返した。突然の呼び出しに慌てた様子のお金たちをまとめて数えてみる。お年玉の残りと合わせて、16543円あった。よし、予算16000円。自分のお金で縮毛矯正をかけよう。あたしは中学生にしては思い切った決断をした。
 再びスマホで美容室の検索をすること1時間半。予算内で施術が受けられ、なによりクセ毛に特化した美容室、と言うのを見つけたあたしは、迷いなくそこを予約した。指名料が取られなかったので、あたしの好みの顔をしている男のスタイリストを指名して。
 失恋したショックのさながら、あたしは今の自分を変えるために一歩を踏み出してやる!そう、闘志に燃えていたのだった。

 お店の目の前に立ち、あたしはその建物を見上げた。あたしが予約した美容室は、外観がとても北欧調でシンプルなのに温かみがある。
 初めて行く美容室というのは、どうも緊張する。普段より服装にも気を遣ったし、メイクだって雑誌を見て研究し直した。下手したら、大場くんに告白をしたときよりあたし、かわいいかもしれない。髪型を除いては。
 「いらっしゃいませ。お客様ですよね?どうぞ」
 いつまでも美容室の前で突っ立っていたあたしを見かねたのだろう男の美容師さんが戸を開けて中へと招き入れてくれた。しどろもどろしながらも、予約時間と名前を告げたら、美容師さんはにこりと眩しいくらいの笑顔で微笑んだ。
 「今日担当させて頂く瀬尾裕太です。どうぞ、お席へご案内します」

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