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『さあ、魔法を教えてあげる』結咲こはる

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 通されたのは角の席。上部に開いた横に細長い窓から、淡い光が差し込んでいる。
 「問診表を作りたいんですが、いいですか?」
 瀬尾さんはあたしのところまでやってくると、2枚の用紙をバインダーに挟んだものを手渡した。ざっとその内容に目を通すも、今まで美容室で書いてきた問診票よりとても細かい。好きなヘアスタイルだとか、持っているヘアケア用品とか。それからアイロンとか、ドライヤーの有無。あとは解決したい悩みとか。期待に胸が膨らむ中、あたしは剛毛の癖毛が悩みであること。だから縮毛矯正をかけたいこと。その旨を大きな文字で書き連ねた。
 「書けました?」
 瀬尾さんに尋ねられ、あたしははい、と頷き問診票を渡す。すると瀬尾さんはざっと目を通してから、改めまして、と頭を下げた。
 「瀬尾裕太です。今日はよろしくおねがいします」
 たどたどしい口調で、あたしもまたお願いしますと頭を下げた。
 瀬尾さんは、中学生の子どものあたしに対してでも、とても丁寧な話し方をするひとだった。あんまり穏やかな表情をする気さくさから、あたしはすっかり安心しきってしまって、気がついたらタメ語で話をしていた。
 「今日は、縮毛矯正ですよね?」
 問診票を見ながらのカウンセリングを一通りしてから、瀬尾さんは言った。あたしは頷いて、悩みのクセ毛について語った。
 「好きな人に告白したら、この髪のせいで振られちゃって」
 自虐気味に笑った。なぜか今になって、涙が滲んでくる。鏡越しに瀬尾さんと目が合って、あたしは慌てて涙を拭った。
 「だから、矯正おねがいします」
 瀬尾さんは黙ったまま受付の方へと歩いていく。そしてその手にティッシュの箱を持って戻ってきた。使ってください、と渡されたそれに、あたしは一瞬悩んだが、有難く使わせてもらうことにした。
 「……その男の子は、随分言葉足らずだね」
 瀬尾さんは、あたしの髪をひと房とってその根元に視線をやりながら言った。
 「ストレートヘアが好きなのはいいけど、それがその子に似合っているか、というのが大事だと、僕は思う」
 あたしは目を大きく見開き瞬きを繰り返す。
 「矯正をかけるのは全然いいんだけど、藤吉さんの髪質なら、矯正をしなくても乾かし方で随分真っ直ぐになると思う。それにこれは生かせるクセ毛だし」
 「え?ほんとに?生かせるクセって、ゆるふわっとした感じになる?」
 「全然なると思う。まだ若いし、そんな無理に髪を傷めつける必要はないかなって思うけど」
 「?矯正って、髪傷むの?」
 あまりの無知さに、あたしは瀬尾さんの言葉に目を大きくするばかりだ。それでも瀬尾さんは嫌な顔をすることなくその穏やかさで優しく教えてくれた。
 「矯正って、かけると艶が出るんだ。でもそれって髪を押しつぶして無理やり出しているようなもので。せっかくこんなに健康な髪だし、まだそんなダメージ与えなくてもいいんじゃないかなって」
 瀬尾さんはタブレットを持ってくると、素早く画面を動かしあたしの前に置いた。そこには、あたしの好きな髪型をしたモデルの子が映っている。
 「イメージと違ったらすいません。藤吉さんの好きなイメージの髪型で、この髪質だったらこのあたりがいいかなって思うんだけど」
 瀬尾さんは、本当にいいのかっていうくらいカウンセリングに時間を割いてくれた。次の予約が入っているのではと思うけれど、正直ここまで相談に乗ってもらえると嬉しいし、何よりわたしに合った専門家の意見が聞けるというのはすごく安心感があった。
 瀬尾さんはコームで髪を梳かし、そのまま持ち上げた。

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