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『僕は行ったことがない』大葉区陸

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「メンズもあるわよ?」
「強引すぎるでしょうに」
 僕自身はそこらへん割と流せる方だが、娘はさすがにそういうの大丈夫なのだろうか。大丈夫なのかい? と確認すると、やや言葉を選びつつも。
「に……2時間くらいなら」
 と慎重に返された。いけるのか。不自然に神妙かつ、熟慮の入った声色で言ったわが子の言葉に少し驚く。妻はその娘の発言を聞くや否や己の大雑把な提案を、オーバーなリアクションで撤回しだす。
「ああ、ダメよ。ダメ。あなたにそこで我慢をさせるのは何か、そう。逃げな気がするわ!」
「ママ!」
 謎の絆を確かめ合い抱擁する母子。感動的ではあるのだろう……か? どうでも良いが周囲のギョッとした目が痛い。雑貨フロアで始まる謎の親子の絆を確かめるシーン。気まずさを誤魔化すように僕もまた、二人の頭を所在なげに撫でる。
「子供は気遣いをしすぎちゃダメなのよ。かといって全くしないのも教育上問題だけど」
「そうよね!」
 そうなんだよね。別に今確認することじゃないけど。しばらくして多少場の空気が落ち着くと、僕はつい聞いてしまった。
「そもそも勝負の定義は?」
 と問われるのを待っていたのか、ヒールをわざとらしく鳴らしながら妻は腰に手を当て、こちらを流し目で見つめつつ大仰な声色で言う。
「誰か一人でも完全に飽きれば『負け』」
 何に対しての負けなのだろう。それは誰も、誰にもわからないことだった。聞ける雰囲気でも、なかった。

 取りあえず一日潰すという目標は定まってからもデパート内を上に下に、文字通り行き当たりばったりに近い形でうろつく僕たちなのだが、日頃興味もない種類の寝具やらを観察しながらも妻はどこか吟味するように何事かを呟いている。
「外の店は反則、かな?」
(定義がどんどん厳密になっている……)
 レギュレーションを細分化するのは結構だが彼女が何と戦っているのかわからなくなってきた。だが、それでも乗らないのも失礼かなと思い何の気なしに。
「買うのはどこまでありだと思う?」
 なんて聞いてみるとふむ、と顎に手を当て妻は……鋭い目線で重々しく口を開いた。贔屓目抜きにその姿は非常に真剣で、凛々しいとも形容できる張り詰めたものだった。決まっていると言えるだろう。場所がデパートの寝具コーナーで、語るべき内容がデパートの暇つぶしの遵守すべき定義について、でなければ……の話だが。
「もちろんナシとはいわないけれどね。安易に頼るのはキツいと思うわ」
 ああ、なるほど。つまりは彼女自身が「買わない」というだけではない。僕自身が日頃来ない場所で、面白がってつい衝動的に何かを手に入れようとすることを防ぐつもりか。そんな風に釘を刺さずともいくらなんでもそうそう買うとは思えないのだけれども。
「ねえ、そっちはどう……」
 少しして、気づく。娘がいない。
 いない! そう、互いに思わず叫ぶ。もう時間配分どころの問題じゃない、我が子を捜索しなければいけない。混乱する暇すらなく、瞬間的に手分けすべきだと判断した僕と妻は即座に散り、まず同フロアを探しまくる。
 幸い、あまり動じた感じでもなくすぐ見つかったが、娘は迷ってしまったことその物ではなくこちらの方が取り乱している事実に、どこかギョッとした反応を見せてきた。親の心配というものを知らぬは子ばかりなり。しかしまあ、泣いてお家帰るとならなかっただけ良かったのか。子供の肝が太いのか親の配慮が粗雑なのかわからぬ事態だった。

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