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『僕は行ったことがない』大葉区陸

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 正直車を使う必要があるのかな? と少しばかり言いたくなるような近場も近場なデパートの駐車場に車を止める。だが温度もコロコロと変わるのが当たり前なこの頃、今日は歩くのが嫌だというより気温を理由に車を使いたくなる日だったのだ。こういう行為が更なる都市部の高温状態を加速させるのだな。
 車のドアが開くと同時に弾丸のように力を漲らせ飛び出す娘を、危ないから走るのはやめなさいとたしなめつつ中に入っていく。正直なところ、入ったことのない巨大な建物というものは、どことなく威圧感だか違和感のようなものを覚える性質なのだが。そんな僕にすらあたかも無害そうに見せるその姿が少しなんだかなあと思える。まあ、近所だと言うのに行ったことのない場所というのも今時そう珍しくあるまい。
 入った僕たちはまず、特に意味や目的もなしに近場の階層で雑貨等の商品を見て回る。ほう、こんなものがあったのかと。ふと……我が子と僕の反応がシンクロしていることに気付く。食い入るように物珍しげに商品を見る姿。よく今の子は昔のように可愛げのある反応をしないだとか、時代が違う、と無根拠に……それでいて何時の世も言っているようだが。そもそも僕自身が人生においてデパートで何かを物色した覚えが無い。娘もあまり、こういう場所には連れて行った記憶がない。なら、世代に関係なく抱く物珍しさの感覚は一緒か。
 妻はただ一人「まあ私は慣れていますけど?」と気取った感じを崩さない。少しサマになっているのが僅かに悔しかった。きっと子供の頃は娘以上にあそこに連れて行けどこに行きたいとねだりまくったに違いない。そんな彼女はどこか休める場所で一人にならなくていいの? なんて聞いてくるが、正直今は見たことのない物ばかりがあって気になってしょうがない。
 僕も見識ある大人だ、それがどんなものかという物品自体は見知っている。知っているが、こういう場所にロクに来ない身としては、直接見たことがない以上実際のブツがどんなものかと言うのが非常に気になってくるのだ。それが決して買わないような商品であろうと。
 だとしても、だ。
 しげしげと妙にポップな小物を見ていた手を止め、ぼんやりと呟く。
「でもなあ……今日まるごとは、もつのかなあ。これ?」
 僕はこの手の場所に来たことがほぼない。この手の場所で楽しむ行為自体に慣れているのならともかく。子供というのもまた、地上で最も飽きっぽい生命体である。だから……問いかけというより、誰とも無しに漏れ出した心情に近い形で、場合によってはデパートのみならず他所にも行かんとどうにもならんのじゃないかなあ、と。軽い気持ちでそう言ったのがまずかった。
 妻がなんらかのスイッチが入ったかのように突如として振り返る。それだ、と言いたげな顔をした彼女に対し、少し嫌な予感がした。だが、既にその予感は現実のものとなっている。
「デパート内で一日もたせられるか」
 やってみようと、妙に通る声が辺りに響いた。突然の思いつきに近いセリフに僕は思わず困惑する。娘を見てみれば、何かしら乗り気の反応をしているのがまた、おかしい。僕だけがちょっと引いている。よくわからない遊びが開始されようとしていた。
「実際にどうやって?」
「……婦人服を見ていれば8時間は余裕で」
 流石に雑で投げやりな戦法であると自覚もあるのか、今までに無くバツが悪そうに妻は提案した。実際これは無茶かなあと言うのがありありと見て取れる所作なのが、茶目っ気も感じるといえば感じる。

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