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『されば、そも楽し!』黒藪千代

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 泣きそうな勢いで黄色い声を上げる相原君。切り口がギザギザなそれぞれの三枚卸し。それでも格別に美味かった。
 三枚卸しに挑戦している数分間、いや、何時間も過ぎたような気持だったその時が俺たち5人の親交を深めてくれた。
 それ以来、毎週土曜日が待ち遠しかった。料理なんかちょっとしたアイデアだけで十分にやれると思っていた俺たちは2か月の間に魚や肉をあの手この手で料理する術を習った。毎回始めての事が必ずひとつあり、俺を含めた全員が息を止める程の緊張と達成感を味わった。2ヶ月後教室が終わる時、別班の5人も加わってみんなで打ち上げをした。
「いやぁ~実に楽しかった!」
 俺よりも年上の別班の河本さんが言うと、みんな大きく頷きながらそれぞれに感想を言った。
「僕、この年になって仕事以外でこんな友達が出来るなんて思ってなかったから、本当に嬉しい!」
 相原君が言うと、みんなゲラゲラと笑う。一番若い相原君が(この年)って言った事に笑っているのだが、本人はそんな事に全然気がついていない。しかし、みんな笑いながら大きく頷いた。
 料理教室が終わってからも俺たち5人は定期的に集まっては料理や趣味、時折お互いの仕事の愚痴を言い合ったりもした。相原君は相変わらず黄色い声だけど情にもろく家族思いの優しい男だ。川口さんは口数の少ない人だけど、物知りでいろんな知識を披露してくれる。沢本さんは俺より一回りも若いのにしっかりしていて俺の愚痴を黙って聞いてくれる。そして八百屋の浩二さん。彼のおかげで商店街の中にも溶け込めた気がした。5人の繋がりがその知り合いを辿って膨れ上がり、商店街を数メートル進んだだけで誰かが(お疲れ~)と声を掛けてくれる。
 あと数ヶ月で終わりが来る単身赴任。思いがけず友達が出来、この地を離れたくないと思う気持ちを無視できなくなっていた。しかし、俺はサラリーマンだ。会社を辞めてこの地に残った所で本末転倒。従うしかないのだと思うとやるせない。
もうじきこの地を離れるのだと言う事をみんなに話さなければと思いながら、季節は夏から秋を過ぎて商店街にも冬がやって来た。

「今年は、いい出会いがありました。こうして皆さんと忘年会が出来る事を大変嬉しく思います」
「もぉ、森田さん硬い!はいっ、かんぱぁ~い!」
 相原君にちゃちを入れられて苦笑いしたが、みんなで一斉に煽ったビールは殊のほか美味い。

「実は、来期で地元に戻る事になりまして」
 俺は出来るだけ明るく言った。
「よかったですね!」
 片頬の引き攣りを感じながら言う俺に、社交辞令のように答える沢木さんの対応にちょっと腹が立った。
「今さらですよ!8年も家族と離れて、今さら!」
 一回りも年下の沢本さんに俺は年甲斐もなく拗ねて、ひがんで、愚痴った。部屋でひとり飲むビールよりも遥かに美味い酒に酔ったのに、やるせない気持ちが抑えられなくなっていた。
「そうですね・・・。8年って長いですよね。本当は私も単身赴任がいつか終わる事に少し不安を感じています。」
 そう言うと沢本さんはグラスを煽って勢いをつけると、今度は吐き出すようにして言った。
「私たちサラリーマンは会社の言う事には逆らえない、多少の意地や思いを通しても結局は会社に振り回されてあっち行ったりこっち行ったり。ホントやるせないですよね!」

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