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『されば、そも楽し!』黒藪千代

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「やっぱ男の料理教室はアタリだったね!」
 聞いた事のある声がして、まな板の大根から視線を上げるとドレッシングを混ぜ合わせながら会話に参加して来たのはダミ声の八百屋の店主だった。
「あぁ~!八百屋の!」
「岡部です!浩二でいいですよ!あのキャベツ美味かったでしょ!」
「ええ!美味かったですよ!ありがとうございました」
 包丁を握り締めたまま頭を下げた俺はあのキャベツがなければ今ここに来る事も出来なかったとお礼を言った。
「あっ、こちらは川口さん!今日はオレが誘いました」
 気の弱そうな川口さんに変わって浩二さんが紹介すると無言でぺこりと頭を下げた。
 生野菜の千切りを氷水に晒して、ゴボウとレンコンをオリーブオイルで炒める。この時鷹の爪のみじん切りを適量散らして焦げないように弱火でじっくりと炒めた。あとは食べる直前に両方をレモンベースのドレッシングで和える。至極簡単だが美味そうだと思うと身体がビールを求めて喉がゴクリと鳴った。
 作業を終えた南蛮漬け調理班が奥から出てくると、さっきまで他人行儀にしていた5人が我々と同じく調理中にコミニュケーションを取ったのか和んだ空気を含んで連れ立って来たので我々の班も食材を手に調理室へ入ろうとした。
「大変でしたよ!頑張って下さいね!」
 すれ違ったひとりが俺の肩を叩いて声を潜めるようにして言った。
 悪戯な笑みを浮かべてすれ違ったその男性を見ながら俺は(たかが南蛮漬け)と内心鼻で笑って調理室へ入った。
「えぇ~無理ぃ~僕、無理ぃ~!」
「あぁ~オレもこれはなぁ、森田さんどうですか?」
 大げさに声を出す相原君の後ろから流し台を覗き込むと、そこには立派な大アジが数匹デンッと横たわっていた。
「はいっ、ではまずこの鯵(あじ)を三枚に卸します」
 さらりと言う奥さんの声に(もしや)と思っていた俺の心臓が急にドクンっと音を立てた。次の瞬間、俺以外の4人が一斉に俺を見た。
「いやっ、えーっと私もやった事はないですよ!」
 大根の千切り程度でドヤ顔をした事を後悔した。
「まぁとにかくやってみましょう!その為の料理教室ですからね」
 躊躇うでもなく当たり前のようにまな板の前に俺を促した奥さんは出刃包丁を指さして(ではまずこの角度で持って下さい)と言う。
 視線の先が読めないアジの目が出刃包丁を持った俺の姿を捉えている。ここに刃を入れるのかと思うとこめかみに心臓が張り付いているようにドクドクと振動を感じる。しかし、この状況から逃れる術はない。
「は、はいっ!」
 心なしか震える自分の声。振り払う為に大きく鼻から息を吐き出した。
 俺は意を決して、奥さんの声だけを頼りに初めての三枚卸しに挑戦した。
 カチカチと秒針を刻む如くコマ送りの三枚卸しが終わった。俺のさばいたアジは見るも無残な姿。そして沢口さんに出刃包丁を渡す。それぞれがガチガチに力の入った数分間を戦い、次々に出刃包丁をリレーして5人全員が三枚卸しを終えると一斉に安堵の息を吐き出した。
「すご~ぃ!」

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