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『されば、そも楽し!』黒藪千代

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 店内には定食屋で使われていた木のテーブルを寄せ集め卓上コンロが置かれた広い作業台が2箇所に分かれて設置されていた。集まっている人数はざっと10人。旦那さんに促された方のテーブルに近づくと4人の男性がすでにエプロン姿で丸椅子に腰掛けていた。
「よろしくお願いします」
 全員の年代はまちまちだが、俺と同じサラリーマン風だと思われる1人がにっこりと微笑んで会釈を返してくれた。
「本日は、お集まり頂きましてありがとうございます。2ヶ月限定の料理教室ですが皆さんよろしくお願いします。」
 旦那ではなく、若い奥さんの方がみんなの前に出て言う。
「2ヶ月?」まったく記憶になかった2ヶ月の言葉に俺は思わず声にしてしまった。
「ここのご主人が足骨折したらしいですよ、その間娘さん夫婦がここで料理教室をやるって!入会の時に私も聞きました。」
 さっき会釈を返してくれたサラリーマン風の男性が小声で説明してくれる。俺の声に奥さんの挨拶が一瞬止まり静まり返った店内に(うんうん)と黙ったまま頷いてからまた奥さんの方に視線を向けた。
 俺の納得を集まった10人の男達が見届けたところで料理教室は和やかに始まった。
 初日のメニューは、アジの南蛮漬けと付け合せの根菜ナムル。
 唐揚げにしたアジを南蛮汁に漬け込むだけだから俺にも出来そうだと思えてこっそり安堵した。
 調理が始まると1班が店の奥の調理室でアジの調理へ、もう1班は店内の作業テーブルで根菜ナムルの調理へと分かれて行う。俺の班はまず根菜ナムルに取り掛かった。
 用意されていた根菜は硬いものばかりではなく普段から生で食せる大根や人参など見慣れた野菜が並んでいた。男子厨房に入らずと言われていた時代から世の中は大きな変貌を遂げ、今では男の料理本までが出回る時代になった。包丁で野菜を切るという簡単な事なら誰も戸惑う事などない。店内にはトントンとまな板を叩く小気味よい音が響いた。
同じ班の人達が、自己紹介する間もなく始まった料理教室。それでも同じ目的を持って集まった男たちは手際よく作業を分担し順調に進んだ。
「初めまして相原ですっ。随分と手馴れてますね?」
 大根を薄く輪切りにしてから千切りを始めた俺に向かい側から声を掛けて来たこの男は胸に大きなクマのイラストが付いた黄色いエプロンとピンクのペイズリーのバンダナを巻いていた。俺より数段若いだろうと思えるハリのある頬がクシャっと笑顔を作る。
「あっ、ええ。森田といいます。随分と長く自炊やってますから」
 俺は言いながら千切りする大根に目を向けたまま、ほんの少しドヤ顔をした。
「僕、最近単身赴任でここに来たんですけど、自炊まだ初心者で」
「そうですか、私は8年になります」
(えぇ~単身赴任のプロぉ~)と少々黄色い声で言ったこの男。テレビとかに出てくる今時のかわいらしい男?なのだろうか。俺には理解し難い。
「私も5年になります。あっ、沢本といいます。よろしくお願いします」
 最初に会釈を返してくれた男性が人参を器用に千切りしながら、話しに入って来た。こちらは俺より少し若い位で、同じようなサラリーマンの風貌を漂わせていた。
 都心から近いこの街には俺のように単身で一人暮らしをしている人は以外と多いようだ。男性限定の料理教室が早々と定員を埋めてしまう訳だ。

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