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『されば、そも楽し!』黒藪千代

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 名前と携帯番号をメモして定食屋を出た。今度は少しばかり弾んだ気持ちで。と、商店街の入口まで来て肉屋に寄る事をすっかり忘れていたと気づき、仕方なくすぐ側の餃子屋で焼き餃子を買って帰った。娘の顔が浮かんで野菜餃子ではなく肉餃子にした。
持ち帰ったキャベツを水道の水に浸すとまだ十分に新鮮だと目でもわかる。あの八百屋は数年前看板に(無農薬始めました)と付け加えただけあって味はかなりのものだ。
 テレビのスイッチを入れ、生キャベツと焼き餃子を並べる。料理教室へ通う空想をしながらビールのプルタブを引くと(プシュッ)と威勢のいい音が部屋に響いた。
 翌日から携帯の着信を待った。料理教室への期待は日に日に膨れ上がりどうしても通いたいと切望する気持ちが強くなっていく。しかし、時間ばかりが過ぎ着信はいっこうにない。こんな時に限って残業が続き商店街へ行く時間に帰れない日が続き3日後、やっと定時で上がった俺は夕方いつものように商店街へ向かった。そして夕飯の食材には目もくれず一目散に定食屋を目指した。
 肉屋から香ばしい油の香りが漂ってきて、隣の定食屋へ目を向ける。そこには明かりがなく、シャッターこそ降りてはいないが人の気配がない事が見て取れた。
 3日間電話を待ち続け何としても料理教室に参加させてもらおうとまで考えて、お願いするつもりでここまで来た。交渉の相手が不在ならばそれ以上どうする事も出来ない。3日前よりもがっくりと肩が落ちる。しかたなく来た道を戻り八百屋へ向かった。
「安いよ安いよ~」
 いつものダミ声が聞こえて来ると思い出したように腹がグゥ~っと鳴る。
 気持ちとは裏腹に身体は食べ物を求めているようだ。
「あら、お客さんもしかして森田さん?」
 この前キャベツを一人分だけ売ってくれた奥さんが俺の顔を見て近づいて来た。はて?俺はこの八百屋に自分の名前を名乗ったかな?
「は、はい、」
「よかったぁ~探してたんですよ!いや、私じゃなくてこの先の定食屋さんがね!」
(えっ!)さっきがっくりと落ちたままになっていた肩が急に持ち上がった。聞くと、定食屋の料理教室にキャンセルが出て俺の携帯に連絡したらしいがメモした番号が間違っていたらしく連絡がつかないと言って八百屋に相談に来たらしい。あの日俺が手にしていたビニール袋にちぎったキャベツが入っていたのでこの八百屋の客だと察したと言う。
 斯して俺は料理教室の生徒なった。教室は週に一度、土曜日の午後3時から始まる。男性限定とあった教室にはどんな人が集まってくるのか不安と楽しみが入り混じって年甲斐もなくワクワクしながら初日を迎えた。
 予定時刻の10分前に定食屋の前に到着すると、以前はガラス張りだった店の正面に格子戸の柵が施され入口には以前と同じ紺色の暖簾が掛かっていた。小綺麗になった古民家風の趣にテンションが上がる。新品のエプロンとバンダナの入ったエコバッグを肩にかけ直し引き戸を引いた。
「こんにちは」

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