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『最後の観覧車』中塚さおり

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「実は私達は今、お父さんと喧嘩して家出中なのよ、このまま家に帰らないかもしれないわ」
 なんて告白したら、小夏は泣くだろうか。

 喧嘩のきっかけは、志郎の飲み会の回数が多いということだったが、お互いフラストレーションがたまっていたのか、言わなくてもいいことまで攻め合い始め、珍しく言い争いになった。
「私は小夏ができたから、女優の夢を諦めたのに。あなたは好き勝手遊んでる」
「遊びじゃねーし。仕事の付き合いだわ。夢諦めたの小夏のせいにすんじゃねーよ。小夏ができたってできなくたって、どうせなれなかっただろ、おまえに女優なんて」
 言われてカーっと頭に血がのぼり、思わず志郎にビンタして、そのまま小夏を連れてでてきてやったのだ。

 トランポリンで飽きずにジャンプし続ける小夏をベンチに座って眺めながら、朋香はため息をついた。ふと缶コーヒーが差し出され、隣に誰か座った。見なくても志郎だとわかっていた。
「よくここだってわかったね」
「いや。なんとなくここに来たくなったら、おまえらがいただけ」
 小夏が飛び跳ねながら、「パパ見て―」と叫んでいる。志郎は手を振る。
「私大学の時、ここでバイトしてたの」
「知ってる」
「え?」
「俺らの最初の出会いもここだよな。美人な観覧車のお姉さん」
「え?え?うそ。知ってたの?なんで言わなかったの?」
「恥ずかしいから」
「うそ。知ってたんだ。そうなんだ」
「三周させてくれて、何事もなかったようにありがとうございましたって言ってくれて、この人は名女優だなって思ってた」
「……」
 子どもがいても、夢があるなら諦めなくていいからと、オーディション受けたいなら受けてもいいと思うし、とボソリボソリと志郎が言うから、朋香は思わず泣いていた。
「さっきまでこのまま家を出ていって、一人で小夏を育てようかって考えてたけど、あなたはやっぱりいい男」
 目を細めて小夏を見ながら志郎は言った。
「簡単に言うなよ。並大抵のことじゃねーよ。母親が一人で子ども育てんのは。並大抵のことじゃない」
「……ごめん」
 あの日見ただけの、話したことはない、車椅子に乗った志郎の母のことを朋香は思い出していた。恐らく志郎も思い出していた。
「いや、今日謝るべきは俺の方だな。お詫びに三つ願いを叶えてしんぜようか」
 朋香は笑った。
「何よそれ」
「三つだけな」
「えー、三つ?お城?あと宝石とか?」
「リムジンもいいな」
 二人は笑い合い、いつもの調子に戻っていた。

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